絶対恋に落ちない。そう思ってたのに…。見習い騎士と素直に慣れない私

森へと

森の奥へと走りだした私は、ただ方向もわからずに前に前にと進んでいた。
森は、終わる先も見えず、道らしい道もなくまだまだ先へと続いているようだった。

(おかしい、確かに、路地裏を抜けてきたはず。こんな森、近くにはなかった。それに、あんな草原。
東京にはないはずなのに。)

「待てって言ってるだろ!」
後ろから男は追っかけて来る。

(待つわけないでしょ!)
さっきまで、雨に濡れていたので、服も髪も肌にはりつく。
私は、必死に走るが、草が生い茂って、何本もの木が無数に生えており方向感覚をなくす。
当たりに目印になりそうな、建物を探すが、木が広がっているだけ。

(こんな時に、携帯でも持ってたら、せめて方角だけでもわかったのに。)
拾い上げたカバンに入っているのは、筆記用具と数冊のノートくらい。

木の陰に隠れ、男が追ってきてないか、様子を伺う。
すると、別の方向から、別の2人の男の声が聞こえてきた。

「おい、やけに森が騒がしいな」
「アルディのやつ、何かしたんじゃないのか。二手にわかれよう。侵入者を見つけたらすぐに牢屋行きだ。」
「了解」
2人の男は、私の手前で、左右に分かれていった。
慌てて、しゃがみ込み見つからないように身を隠そうとする。

「それで身を隠してるつもりか。」

私の横に、追っかけてきていた男が、私の傍に立っている。
「なんで、、むぐっ。」
私は、声を上げようとしたが、背後から口を押えられ、
耳元で囁かれた。
「お前にこの森を通り抜けられると、俺は見習い騎士どころか、クビだ。おとなしくしていろ。こっちだ。」
今まで、走ってきた方向へと男が引き返そうとする。
(騎士?やっぱ、ここは日本じゃない。外国?)

「私の事を引き渡すつもり?私は、ただ迷っただけ。家に帰りたいの。」

「俺は、そこまで仕事熱心じゃない。あいつ等に、お前の事が見つからなければ、俺も余計な面倒ごとを受けなくてすむ。あそこで何をしていたか聞き、問題がなければ、帰るなり好きにしろ」

私は、彼の横顔を見つめた。天パで無造作に伸びた髪は、あちこちに跳ね、右目は、伸びた前髪で隠れている。左目がグリーンおびており、光に当たると反射して輝いているように見えた。

(何てだらしのない髪型。爽やかだった正人とは、大違い。
でも、ここがどこかも分からない今、彼を信じるしかない。)

「わかったわ、私の事も話すけど、ここはいったい。」
ここは、どこなのか聞こうとした時、彼が私の話を遮った。

「話すのは森を抜けた後だ、はやく行くぞ。
その前に、その見慣れない服だと、目立つ。雨も降ってないのに、濡れているしな。」

彼は、自分が着ていた。紺色の上着を脱ぎ、私に渡す。

あちこちが土で汚れ、袖は、ボロボロに破け、前に付いていたボタンも、ほとんどが取れていた。
「あ、ありがとう。。」

私は、戸惑いながらも、彼が渡してくれた上着を羽織る。
上着の下は、彼は黒いシャツを着ているだけだった。

脱ぐまでは細身に見えた彼は、体を鍛えているのか、腕や腹筋に筋肉が付いていた。
(意外と鍛えてるのね、ちょっと意外。)

「どうした、いくぞ。」
はやく来いとばかりに彼はスタスタと歩いて行ってしまう。

180㎝は、あるのか一歩の歩幅が広く気を抜くと彼との距離が空いてしまいそうだった。
私は、おいていかれないよう慣れない道に足を取られながらも、彼の後についていき、森を抜けた。
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