エリート外科医といいなり婚前同居
「なんだろう」
その紐らしき物体は彼の部屋にはまったく似つかわしくないピンク色で、私は深く考えずにベッドに近づき、手を伸ばして引き寄せてみた。
「……聴診器?」
出してみると、それはお医者様が使う聴診器のようだった。
でも、胸に当てる部分がプラスチックだし、なんだか安っぽい作り。なによりこのピンク色が、そこはかとなく卑猥な雰囲気を醸し出しているような……。
そこまで考えると、なぜか白衣を着た暁さんが脳内にぽわんと登場し、ピンク色の聴診器を手にして微笑みかけてきた。今からきみを診察するよ、とか言いながら。
……って。いやいやいや! なにこの恥ずかしい妄想!
慌てて首を振って暁さんの姿を脳内からかき消し、妖しげな桃色聴診器をベッドの下に戻した。
で、でも。そもそも、なぜこんなものベッドの下に隠してるの? まさか暁さんってそういう趣味が?
いや、これ以上考えるのはよそう。彼にどんな趣味があろうと、家政婦である私には関係ないんだから……。
またしても妙な妄想に取りつかれそうになるのをなんとか阻止し、私は逃げるように彼の寝室を出た。
リビングダイニングに戻って何気なく壁の時計を見ると、すでに午後六時を過ぎていた。窓の外もすっかり真っ暗だ。