エリート外科医といいなり婚前同居
「じゃあ、そろそろ行くから」
「あ、はいっ。お見送りします」
とりあえず頭の中の疑問を追い出し、玄関に向かう彼の背中を追いかける。
靴を履き、ドアを出て行く前に一度こちらを振り返った暁さんは、一段高い場所に立つ私の姿を上から下までじっくり眺めたかと思うと、なぜか満足げに口角を上げた。
「悪くないな、新妻に見送られるみたいで」
「にっ、新妻?」
唐突に飛び出した甘いワードに、ドキンと胸が鳴った。
いやいや、私、ただの家政婦ですけど……!
なんとか平静を保とうとするけれど顔の火照りだけはコントロールできず、きっと今自分の頬は赤いのだろうと思うと、ますます恥ずかしくなる。
もー! こういう反応するから、からかわれるんだってば……!
「じゃあ、行ってくるよ。可愛い家政婦さん」
暁さんは必死で羞恥と戦う私を弄ぶかのように、甘いハスキーボイスでそう言い残してドアを出て行った。
「い、行ってらっしゃい……」
静かな玄関に、どっと疲労の滲んだ私の声が頼りなく響いた。
なんだか日を追うごとに、暁さんの不可解な言動がエスカレートしている気がする。
やっぱり今日は、なんとしてでも雅子に話を聞いてもらおう……。