エリート外科医といいなり婚前同居
その夜、暁さんの帰宅は昨日より遅く、七時半ごろだった。
しかし、雅子とあんな話をしてしまったせいで、玄関まで行って出迎える勇気が出なかった。
どうしよう、普通の顔で「おかえりなさい」と言える気がしない……。
廊下から近づいてくる足音に緊張しながら、キッチンでスープの鍋を無意味にぐるぐるかき回す。今日は私の大好物、大豆とたっぷりの野菜を煮込んだトマトスープだ。
そのうちリビングダイニングのドアが開き、私の肩がびくっと跳ねた。
「ただいま。……千波さん、いる?」
暁さんはソファに荷物を置くと、出迎えに来なかった私の姿を確認するためかキッチンにやってきた。
「お、おかえりなさい。すぐご飯にしますか?」
ほんの一瞬だけちらっと彼を見てぎこちなく言った私は、すぐまた目をそらして鍋に視線を落とした。
ネクタイの結び目にぐっと指を入れて緩める彼の仕草が、気だるい大人の色気を醸し出していて、目が合おうものなら白衣の彼に診察される不埒な妄想がまた膨らんでしまいそうで……。