雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

『お相手は、かねてから噂のあった男性で――』

それって、まさか社長のこと……?

『フランスのプロサッカーチームで活躍する長本選手だそうです。アンジュさんは現在、妊娠5か月で、来年にはママになるとか!ダブルでおめでたいですねぇ』

陽和「え!え!」
雨宮「驚いただろ」
陽和「驚きました……え、じゃぁ社長と二股……」
雨宮「どうしてそうなる?」
陽和「だって、この前!」
雨宮「あぁ、あれはあいつの悪ふざけだ。それに向こうでは(パリ)、あれくらいのキスなんて挨拶代わりみたいなもんだろ」
陽和「えええええ」

でも、じゃぁ、あの”瑛士にちょっかい出すな”というのも、悪ふざけだというの?

雨宮「結婚するし、しばらく会えなくなるからって挨拶にきたんだ。そのくせ、自分は酒が飲めないからって僕にばっか飲ませて。気が付いたら朝だ」
陽和「寝ちゃったんですか?」
雨宮「あぁ、僕もアンジュもな。お互い爆睡」

なぁんだ、そうだったんだ。
ホッとする陽和。
しかし、そのすぐ次の瞬間、なぜホッとしたのだろうと自問する。
その様子は、雨宮から見てもバレバレで。

雨宮「ひよこの機嫌が悪かった理由はこれか」
陽和「えっ……と」
雨宮「誤解は解けたはずだから、機嫌直してくれるよな」
陽和「はい……いや、えっと、あの」

車はいつの間にか停まっていて。
ギアをパーキングに入れた雨宮は、陽和の方にグイッと体を向けた。

雨宮「で? 参考までに機嫌が悪くなった理由を聞こうか」
陽和「り、りりりりり理由なんて」
雨宮「理由が分からないと、また同じことをしてしまうかもしれないだろ? 僕に恋人がいると思って機嫌が悪くなった理由はなんだ?」

完璧なまでの笑顔で迫る雨宮。

どうしよう――。
理由なんて、そんなの、
すき、だからに決まってる。

私、社長のことが好き。
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