雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇雨宮が運転する車の中 (夜)

和奏を自宅に戻し、諸々の処理を榊に任せた雨宮は、陽和を連れて会社に戻ることにした。
車は丁度、橋を渡るところ。
ライトに照らされ、キラキラ光って見える。

陽和「本当に色々とありがとうございました」
雨宮「いや、なかなか強烈な妹だな」

雨宮は和奏の暴れっぷりを思い出し、クスクス笑う。

雨宮「ここだけの話、録画した映像を出すところに出したら、逆に過剰防衛で訴えられそうなほどだったぞ。相手が馬鹿で良かったよ」
陽和「えぇ、もう想像がつきます……ああ見えて和奏は空手の有段者なんです」
雨宮「キレた理由は、お父さんのパンを馬鹿にされたからだろ? 家族思いの良い子じゃないか」
陽和「はい、良い子なんです」

雨宮に「和奏は良い子」だと言ってもらえたことが嬉しくて、素直な笑顔を浮かべる陽和。
その顔をちらっと横目で見た雨宮は優しい目をする。

雨宮「やっと笑ったな」
陽和「え?」
雨宮「こないだからずっと、こーんな顔をしてるから何か気に入らないことがあったと思っていたが」

そういって、雨宮は陽和の顔真似をしてみせる。

陽和「そんな顏してないですよ!」
雨宮「いや、してたぞ」
陽和「してないですよ!気に入らないこともない……です」

気に入らないことなんてない。
あるはずがない。
だけど……そうだな、ひとつあるとすれば。

――と、その時、ラジオからニュースが流れる。

『ここで速報が入ってきました。なんと、あのモデルのアンジュさんが結婚されるそうです』

え!
驚いて、雨宮の顔を見る陽和。
雨宮は涼しい顔でハンドルを握っている。

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