ヴィーナスパニック

思わず一歩下がってしまう。ノートたちを抱える腕にも一層力が入る。

よりによって、なんでこの人なの!?

浅葱くんは口を閉ざしたままだ。
制服を着崩し、ポケットに手を突っ込んで佇むその姿は物言わずとも、気圧される。
やっぱり今日も、髪型はキマってる。


鷹の目が、真っ直ぐ私を射抜く。
すごい圧迫感。
これほど、蛇に睨まれた蛙ということわざがぴったりな状況はないだろう。


「あ、あ、あの、お怪我は?」


どうにか声を絞り出したものの、震えてるし上擦ってるし情けない……。
だって仕方ない。半泣きなんだよこっちは!


「……ねえけど」


漸く形の良い唇が動いた。
見た目に違わず、低くて落ち着いた声。

良かった!
『腕骨折したやんけ、慰謝料払わんかい』とか不良のオキマリの展開に持ってかれる心配はなくなった!!

小さく心の中でガッツポーズをしてみる。


「あれー、蒼馬その子だれ〜?」


冷や汗かきまくりの私に反して、間の抜けた声が浅葱くんの向こう側から伸びてくる。
続いて、長身の彼の背後からひょこっと顔を覗かせる人物にぎょっとする。

ひえー!く、黒マスクだ!!

浅葱くんの隣に並ぶ男の子。背は浅葱くんよりも十センチほどは低い。
それでも平均くらいだと思う、浅葱くんが高すぎるのだ。

少し重めのマッシュヘアはほんのりウェーブがかっていて、目が醒めるような鮮やかなコバルトブルーに染まってる。
カラコンをしてるのか、瞳は髪色よりももっと深い青。

浅葱くんに負けずと、ピアスいっぱい開いてるし。

顔の半分が黒いマスクで覆われているものの、十分過ぎるインパクトを与えてくれた。

うぅ……すごい絵面。
その迫力に、立ってるのがやっとだ。
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