ヴィーナスパニック
ざわつく教室はきっと好奇心に溢れて、噂になってるに違いない。
昼休み中だから廊下にも生徒がいっぱいいるし、連行されてると気づかれぬよう彼とは十歩分くらいは間隔を空けていた。
いまいち状況が整理できないまま、前を行く浅葱くんの背中を眺める。
本当身長高いな……185はありそう。
濃紺のブレザーに、同系色のチェック柄のスラックスは絶妙な崩し加減で着こなされてて、他の男子生徒と同じものを身につけているはずなのに全く別物に思える。
ちなみに女子はブレザーは男子と同じだけど、スカートが赤と紺の大柄なチェックで私は結構気に入っている。
そんなことを考えてると、気がつけば非常階段に私達はいた。
幸い他には誰もいなかった。
くるりと浅葱くんが振り返り、階段の手すりに体を預けて私と向かい合う形になった。
改めて至近距離で彼を瞳に映して、私は束の間見惚れてしまっていた。
顔小さいし首も人より長めだし、すらりと伸びる手足。
果たして本当に同じ人種なんだろうかと疑ってやまない。
陽の光を受けて、漆黒の髪が風にそよぐ。
切れ長の一重の目は三白眼で、やっぱり鷹だと私は思う。まつ毛長いなぁ……。
意思の強そうな凛々しい眉も、真っ直ぐ通った鼻筋も。
口紅をひいたみたいに血色の良い唇は、皮膚の下の血管が透き通って見えそうなくらいに白い肌によく映える。
浅葱くんを形造る何もかもが完璧すぎて、恐怖も忘れていた。
私と歳は一緒なのにとても大人びてて滲み出る色気があって、女の子なら熱をあげるのも理解できる。
この人、綺麗――。
「お前、好きなんだろ?白波瀬櫂が」
唐突な浅葱くんの言葉は冷水のように、ぼうっと夢うつつだった私の頭に降りかかった。