My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
彼の神経を逆なでしそうで、今更謝りにも行けない。
(それに、どうすればいい? ライゼちゃんになんて言えば……)
明日の朝には発つと言い切ったラグ。
もう付き合いきれないという意味だろう。
呪いを解くために私の……銀のセイレーンの歌が必要だと言った彼。
でも彼なら、私がいなくても自力で他の方法を見つけ出せる気がした。
セリーンがどちらに付くかは、考えなくてもすぐにわかる。
――明日まだここに居たいと言えば、私はこの国に一人残ることになってしまう。
(もしライゼちゃんの願いを叶えてあげられたとしても、その後一人でエルネストさんを捜すなんて無理だよ)
謝りたくても前に進めなくて、戻りたくてもどうやってライゼちゃんにこの事を伝えていいのかわからなくて、振り返ることも出来ない。
この場から動けない。
「どうしよう……」
夜の闇の下、途方に暮れ立ち尽くしていると、再び近くの虫の声が止んだ。
前方からこちらに早足で向かってくる足音。それはラグではなくて、もっと背の低い――。
「ラウト君?」
「ねぇ、お姉さん! もう帰っちゃうって本当?」
いきなり迷っていたところを突かれ、一瞬言葉に詰まる。
でもラウト君の様子がこれまでと違うことに気づき、私は腰をかがめ彼と目線を合わせた。
「うん、ラグはそのつもりみたいなんだ。私はまだ帰りたくないんだけどね、お姉ちゃんとの約束があるし」
そう苦笑しながら言うと、ラウト君は少し考え込むように視線を落とした。
何だか彼はとても焦っているように見えた。
いや、それよりもソワソワしていると言った方が近いだろうか。
「そうだよね、ラウト君だってお姉ちゃんのお願い叶えてあげたいよね」
「ねぇ、お姉さん。……お願いがあるんだ」