My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
思い切るように顔を上げたラウト君の表情は、驚くほど大人びて見えた。
「ん?」
「僕の友達を、助けて欲しいんだ」
それは周囲に聞こえないように注意した小さな声だったけれど、その瞳はまっすぐ真剣で、こちらが戸惑ってしまうほどの強い意志が感じられた。
「友達って?」
「一緒に来て!」
「ぇ、わっ……!」
途端私は強く手を引かれ、つんのめるようにして真っ暗な森の中へと走り出していた。
「ちょっ、と、ラ、ラウトく、うわわっ……!」
草や木の根に何度も足をとられかけ、転ばないようについていていくのでやっとだ。
頼りの月明かりも樹木の天井によって遮られてしまい、ほとんど周りが見えていなかった。
でもラウト君はまるで道が見えているかのように全く躊躇することなく進んでいく。
さすが自然の中で暮らしているだけあって、私なんかに比べると相当に夜目が利くのだろう。
私はすでに息切れしつつ、もう一度彼に声を掛けた。
「ラウト君! ねぇ、どこに行くの!?」
「僕の友達のところだよ!」
「そ、その友達ってどこにいるの?」
「ベレーベントの村!」
その村の名前には聞き覚えがあった。確か……。
「それって、今日来てくれた子達が住んでる村でしょ?」
「うん、そう!」
「じゃぁ、その友達って、今日来てくれてた子?」
「ううん! いなかったんだ。だからそいつにもお姉さんの歌聴いてもらいたいんだ!」