My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1


「ラウト!!」

 森を抜けすぐに耳に飛び込んできた上ずった声。

「姉ちゃん……」

 テントの方から一直線に走ってくるお姉ちゃんを見つけて、ラウト君が気まずそうに足を止める。
 こちらをちらりと見てきたラウト君に私は大丈夫だよ、と目で微笑んだ。
 すると彼は思い切るようにしてもう一度お姉ちゃんの方を見た。そして。

「ごめんなさい! 僕――」

 でも最後まで言い終える前に、ラウト君はライゼちゃんに抱きしめられていた。
 驚いた顔のラウト君を強く抱きしめ、ライゼちゃんは涙を流していた。

「良かった、無事で。……本当に、良かった」

 そう、途切れ途切れ言うお姉ちゃんの声を聞いて、ラウト君も一気に安堵したのだろう。
 見る見るその顔が崩れていき、とうとう、うわーんと大きな声で泣き始めてしまった。
 気丈そうに見えても、まだ10歳程の男の子。
 今、この数時間のうちにあったことは、ラウト君にとってかなりショックの大きい出来事だったに違いない。しかも怒られるものとずっと心配していたのだから尚更、緊張の糸が切れてしまったのだろう。
 ヴィルトさんもいつの間にかそんな二人の傍らに立ち、目を細め愛しげにラウト君の頭を撫でていた。
 そんな3人を見ていてついまたウルウル来てしまったけれど、ライゼちゃんのそれ以上に潤んだ瞳に見上げられ私は気を引き締めた。

「カノンさん、皆さん、本当にありがとうございました」
「ううん、私、謝らなくちゃ。ラウト君がいなくなったらライゼちゃん達が心配するのは当たり前なのに、考えなしに行動しちゃって……」
「違うんだ!」

 私の言葉を遮るように声を上げたのはラウト君だ。
 乱暴に涙を拭い、お姉ちゃんをしっかりと見上げて彼は続けた。

「お姉さんは何も悪くないんだ。全部僕が悪いんだよ。……ごめんなさい。僕、ずっとお父さんと姉ちゃんとの約束破ってた。ずっと……嘘、ついてたんだ」

 そう告白した弟をライゼちゃんは驚きもせず、ただ静かに見守っていた。
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