My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「ブライト!!」
「ブライト君!」
「いかん! 内臓をやられているのか!」

 セリーンが大声を出すのを聞いて瞬時に頭に浮かんだのは元の世界のことだった。
 元の世界……日本にいたならすぐに救急車を呼んで病院で治療が出来る。
 でもこの世界に救急車なんてあるわけがない。それにこの近辺で医者はこのブライト君唯一人だと言っていた。他にいたとしても治せる技術が今のこの国にあるとは思えない。

 絶望感に頭が真っ白になりかけたときだった。
 ライゼちゃんがそんなブライト君の身体に手を伸ばした。

「今癒します!」

 その言葉に私は驚く。癒しの術は内臓の傷まで治すことが出来るのだろうか。
 私たちが息を呑んで見守る中、ライゼちゃんはブライト君の胃の上あたりに手を触れ集中するように目を瞑った。

 だが、その細い腕をブライト君の手が弱々しく掴む。
 驚いたようにライゼちゃんは目を見開いた。

「いけませんっ、ライゼ様、……こ、んなことに、力を使って、は」

 息も絶え絶えに言うブライト君を見て、しかしライゼちゃんはそんな彼を怒鳴りつけた。

「何を言うの!!」
「しか、し、貴女の寿命が……」
「寿命?」

 思わず声に出してしまっていた。
 セリーンがそれに続くように言う。

「まさか、神導術士は力を使う度寿命が縮まるのか?」
「……はい」
「そんな!」
「母も戦争で多くの力を使いました。しかしそれが神導術士の定め。私も、」
「いけません、わっ、私、などのために、貴女を――っげほっげほ! っ聞いて、ください、カルダ、が、」

 咳き込みながらもライゼちゃんに必死で何かを伝えようと掠れた声で続けるブライト君。
 そんな彼の腕を優しく取り、ライゼちゃんは再び彼の身体に手を触れた。

「ブライト、もう喋らないで、今――」
「どけ」

 だが突然、ライゼちゃんの両腕を払いのけるようにして別の腕がブライト君の身体に触れた。

「癒しを此処に」
「ラグ!」

 私は思わず歓声を上げていた。
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