偽婚
朝7時。
病室に看護師が入ってきた。
「鑓水さん、起きてる? 検温してね」
体温計を渡された。
腕には血圧計も巻かれる。
「それと、これ、書いておいてくれる? 入院の承諾書」
紙とペンを渡されたが、点滴をされ、体温計を脇に挟み、腕には血圧計を巻かれていたため、うまく受け取れなかった。
「俺が書くよ」
代わりに神藤さんが受け取ろうとしたが、しかし慌てた看護師が「ダメよ」と言った。
「ごめんなさいね。これは、本人か、親族の方じゃなきゃ書けないものなの。いくら一緒に暮らしてて、結婚が決まってる婚約者でも、法律上は他人だから。決まりなのよ」
一緒に暮らしている婚約者だというのは、神藤さんが咄嗟に説明した、嘘だった。
偽装結婚だとも言えないので、仕方がない。
でも神藤さんは、私に家族がいないことを知っているから、余計な気を遣わせてしまったことに、心底、申し訳なくなる。
「書けそうにないなら、親族の方を呼んでね? 遠方かしら?」
「あ、いえ、大丈夫です。私、書けますから」