偽婚
「そう? じゃあ、お願いね」


体温計と血圧計を片付け、シートに記録しながら、看護師は病室を出て行く。

その背を見送り、私は息を吐いた。



「ごめん」

「別にお前が謝ることじゃない」

「そうだけどさぁ。事情が事情とはいえ、私と婚約者ってことにまでなってるし」

「そもそも俺が言い出したことでややこしくなってるだけだ。それにお前が事故に遭ったのも、俺があの場所を指定したからだ。お前は何も悪くないだろ」


私は神藤さんの所為で事故に遭ったなんて思ってない。

だけど、神藤さんは、私が思っているよりずっと、それを気にしているのかもしれない。


慌てて否定しようとしたが、しかし神藤さんの方が先に、荷物を手にした。



「じゃあ、俺はこれからいったん帰って、着替えてから会社に行くよ」

「寝てないのに? 休んだ方がいいよ」

「大事な打ち合わせがあるんだ。父もいる場だ。こんな時に急に休んで、理由でも探られたら、大変なことになる」
< 139 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop