偽婚
人が死ぬのは悲しいことだ。

それが、突然の事故でだなんて、悲しすぎる。


神藤さんみたいな想いをする人が増えるようなことにだけは、ならないでほしい。



肩をすくめる高峰さん。



「けどさ、今は自分のことだけ考えてなよ。他人のことより、まずは杏奈ちゃんが元気にならないと、神藤が」


言い掛けた時だった。

バンッ、とドアが開いたと同時に、「杏奈ぁ!」という大声がした。


驚いて顔を上げると、泣き腫らした梨乃が飛び込んできた。



「事故って何!? ちゃんと手も足もある!?」


私に抱き付き、梨乃はパニックになったみたいに、泣き叫ぶ。

高峰さんは、何事なのかという顔で、少し引き気味に私たちを見ていた。


今朝、一応、梨乃にだけは状況をメッセージしておいたけど。



「休憩中に携帯見て、慌てて仕事早退してきたんだよ! 大丈夫なの!? 死なないでぇ!」

「死んでないってば。ちょっと落ち着いてよ、梨乃」


いくら個室とはいえ、大声はまずい。

必死でたしなめると、梨乃は涙でぐちゃぐちゃな顔を上げた。



「ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。ありがとね、心配してくれて」


幼馴染の、大親友。

こんなに泣かせてしまうとは思わなかったが、でもだからこそ、死ななくてよかったと、余計に思う。


梨乃の涙を拭ってやっていると、後ろから高峰さんが苦笑いで声を掛けてきた。
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