偽婚
神藤さんが戻ってきたタイミングで、夕食が運ばれてきた。
京懐石。
見た目からして美しくて、これはもう、芸術だと思った。
「すごいね。食べるのもったいないよね」
「食べない方がもったいないだろ」
「そういうことじゃなくてさぁ。神藤さんはこういうの、食べ慣れてるからいいかもしれないけど」
「いいから食えよ。冷めたら味が半減して、もっともったいないぞ」
いたっていつも通りの神藤さん。
でも私は、必要以上に喋ってしまう。
普段、どんな風にしていたか思い出せなくて、だから変な間が空くことが怖かったから。
大体、浴衣ってのがいけない。
見慣れてなくて、何だか別の人みたいに見えてくるじゃない。
「おい、どうした?」
「え? あ、大丈夫。私もちょっと疲れたかも」
「お前、遠足の次の日は熱出すタイプだろ」
「何で知ってんのよ」
「見たまんまだろ」
言い合って笑っている一方で、別の自分が後ろにいる。
キャバやってたくせに、まさか、こんな程度のことで感情が揺さぶられるとは思わなかったけれど。