狂った音
なぁんて。
悪態をつくことはせず。

「……あのさ」

足音忍ばせてゆっくり、彼の座る椅子に近付く。
大きくて逞しい背中。
その体に、首に腕を絡ませた。

「そんなにその本、面白い? 僕なんかより魅力的?」

あえて耳元で囁いてやる。

「ほう。お前も興味あるか」

全く動じることなく彼はページをめくっていく。

「……なにそれ」

ボロボロだし装丁は紐で綴ってある。
あと文字がずらずらと不明瞭な自体で書かれていて、パッと見の僕には読むことが出来ない。

「一言で言えば、ある集落の伝承を記したものだな」
「ふぅん……面白いの?」
「面白い。一緒に読むか? 」
「……読まない」

(ハナから構ってくれる気無しってことね)

途端やる気も色気も無くして、傍のカウチにごろりと寝そべった。

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