狂った音
この男は夢中になると僕のことだけでなく、周り全ての事が見えなくなる時がある。

(ま、別に僕達は別に恋人同士とかじゃあないし)

出会った頃、僕は幼児で太郎は中学生。
ただでさえ小さい僕にその身体や存在は、とても大きかった。

口数はそんなに多くないが、穏やかで優しい。
そして案外面倒見の良い彼に、当然ながら僕も懐いたものだ。

10年前、突然アメリカに行ってしまった。
もちろん寂しかったし沢山泣いたと思う。
それ以上に腹が立った。

それから何通も手紙は来たし電話での連絡も寄越してきた。
でも手紙の返事は書かなかった。
電話は我慢できなくてとった。

僕だって手紙は書きたかったけど、何度書いても破り捨てて紙くずだけが溜まっていく。
この頃には気が付いてしまったから。

………彼が好きだって。

この格好してるから勘違いされるけど、別に男が好きとかそういうのじゃあなかったからね?
むしろ好きな女の子いたし。
でもあいつは別格。
第一、外見がもう反則だ。

ハーフだからか濃い顔で、その上ものすごく整っている。

数週間前に帰国していた彼に会ったら、さらにその美貌に磨きがかかっていて驚愕した。

僕が覚えている可愛い顔した学生の彼は、ガタイも良くなって大人の色気まで備えていた。
神というのはなんて不平等なんだろう。

顔良しスタイル良し、そのうえその歳で大学の准教授とか……チートかよ。

なんかムカつくけどやっぱり僕は彼が好きなわけで、こうやって休みの日は彼の家までわざわざ押しかけてしまう始末。

でも向こうも悪い。
なんか好意はあるみたいだけど、いまいちハッキリとしない。

なんなら子供扱いの『好き』なんじゃあないかな。
頭も撫でるし手の甲にキスまでしたのに。
こっちが擦り寄ると、気が付かない風を装って優しくあしらうだけ。

『未成年には手は出さん』というのが彼の弁だけど。
本当はどうか分からない。

(まぁ僕、女装してるしな……)

仕方ないことだし、これはこれで気に入ってこそすれ嫌悪感はない。
だから僕自身はなんの問題もなかったけど……。

(太郎にとってはどうだろうか)

女装した男を恋人を恋人に。
そもそも恋愛感情対象として見られるか?
さらに言えば……その、性的興奮とかするのかな。
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