狂った音
「莉子の方はどうなの? 涼介とは」

半分誤魔化しで訊ねたら、途端真っ赤になる親友。

僕は生暖かい気持ちが込み上げつつも色々と悟った。

……莉子には好きな人がいる。
なんと太郎の弟である城崎 涼介(しろさき りょうすけ)である。

男装はしているが、彼女の性癖はノーマルらしい。
従って好きな人も男性。
でもまぁよりによって、こうも近い人間関係で。

「べ、別にあいつのことなんか……」
「はいはい。ツンデレのテンプレですね」
「だから! 違うって言ってんだろ!」

そんなこと言って、夏休み入ってもう何回涼介と会っているんだろうね。

僕なんか週末だけ。
しかも一緒にいても、ろくすっぽ相手にされない身にもなってくれよ。

(なんか凹む……)

兄弟でどうしてこうも違うんだよ!
太郎は涼介を見習えよ、まったく……。

「そう言えば。騒音の件、どうだって?」

どんどん暗くなっていく僕を見かねてか、テンションと話題を変えようと莉子が聞いてきた。

だから僕は昨晩の事を話して聞かせたのだ。
現在の家主である太郎は、全く怖がっている様子もない。
むしろ楽しんでいる様子すらある。

さらにピアノの音は隣からではなく、家の中が発信源の可能性が濃厚だということ。

「なにそれ。じゃあ、太郎さん家に幽霊か妖怪でもいるってことじゃあないのか」
「……オレん家がどうだってェ?」

僕のでもなく、もちろん莉子のでもない声。
背中の方から飛んできて思わずビクッと肩が震えて、振り向いた。
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