狂った音
「わはははっ、二人ともビビり過ぎじゃん」

腹をかかえて笑うのは太郎さんの弟の涼介。
いつの間に居たのか、僕達のすぐ後ろに立ってた。

「てめぇ……」

漫画ならブチィッとこめかみが鳴りそうな顔の莉子が戦慄く拳を固める。

(これこそ鬼の形相、ってね)

僕は悪いけど見て見ぬふり。
だって、怒ってる莉子は怖いもん。

「私のッ! 後ろにッ! 立つなとあれほど言ってんだろうがぁぁっ!」
「ンだよォ、そんなに怒ることないじゃねぇかよ」
「うるせぇっ、立ち聞きとはイイ趣味だよなァ 」
「あれ、褒めてるゥ?」
「褒めてねぇよっ!!」

掴みかからんばかりの彼女。
それと対称に大して何も感じていない様子で笑う彼に僕はいつも不思議に思う。

(あー、これが愛の力ってやつ?)

これでも最初の頃は涼介も応戦して、中々の修羅場になってたけどな。
気がついたら未だにガチ切れする莉子を、むしろ嬉しそうに見ている愛に満ちた涼介。

(この余裕? に彼女が甘えてるってところかな)

まぁ一番驚くべきなのは、この状況なのに『まだ付き合ってない』って事。

喧嘩、というか彼らなりのコミュニケーションを横目で見ながら深々と溜息をついた。

「……で。俺の家がなんだってェ?」

さっきの話に戻るらしい。

僕は太郎とのやり取りを簡単に話して聞かせた。

< 8 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop