私の中におっさん(魔王)がいる。
* * *
案内してもらったアニキの騎乗翼竜は、他の騎乗翼竜よりも大きかった。軽くひとまわり、いや、ふたまわりくらいは違う。
真っ白な騎乗翼竜で、首が長くなかった。首周りにふわふわとした白毛が生えている。ティラノサウルスに翼をつけたような感じだ。
「こ、これも……騎乗翼竜(ラングル・ドラゴン)なんですか?」
頬が引きつる。正直言って恐ろしい。
「ラングルではねぇけど、騎乗翼竜ではあるな」
「?」
怪訝に首を傾げると、アニキは愛馬ならぬ、愛竜に手を伸ばした。
白い騎乗翼竜はそっとアニキの手に近づいて、その手に顔を埋めた。
「ラングルってのは、さっき見てきた竜の名称だ。騎乗翼竜(ラングル・ドラゴン)ってのは、ラングルがなることが多いからそう呼ばれてる。だから、ラングル以外の竜が騎乗翼竜になっても、ラングル・ドラゴンと呼ばれる」
「へえ……そうなんだぁ。――このドラゴンの名称はなんていうんですか?」
「こいつは、白夜竜(コアトル)。名前は白矢(ハクシ)だ」
「白矢」
名前を繰り返して、白矢を見た。
白矢はちらりとこっちを見て、アニキの手から離れた。
そのまま私の方へと首を伸ばす。
(うっ! やっぱ怖い! )
思わず目を閉じると、アニキの優しい声音が耳に届いた。
「大丈夫だ」
右手に温かい感触がして目を開けると、大きな手のひらが私の右手をそっと取っていた。そしてそのまま導かれるように、白矢の鼻の上に手を置かれる。
白矢の肌は、硬い突起物がたくさんあり、ゴツゴツしていて、ざらついてる。
(でも、温かい)
その温かさに触れた途端、何故か強い安堵感に包まれた。白矢の金色の瞳がとても優しく私を見ていたように感じられた。
「へへっ!」
思わず笑みが漏れる。
白矢は何かに気づいたような顔をして、突然私の手から外れた。私の後ろを見ていることに気づいて振り返える。
そこにはアニキが立っている。それ以外は何もない。
アニキはにこりと笑うと、私の頭に手を置いた。
そのまま、わしゃわしゃとなでられる。
「帰るか」
私は、胸を掴まれた気がした。
快活な口調になのか、アニキの太陽みたいな笑い顔のせいなのか、私にはまるで、この世界で、帰って良い居場所があると言われたような気がした。
「はい!」
* * *
ゆりと花野井が収容小屋を去って行く。その後姿を、白矢は見つめていた。
白矢はその金色の瞳に、先程まで自分に触れていた少女と、その光景を見ていた主の姿を思い浮かべた。
主は、妙に優しい瞳をしていた。
自分に浮かべるよりも、もっと柔らかい瞳。
まるで、少女を見守るような視線。
白矢は、天を仰いだ。
青空を見たかったが、あったのは薄汚れた天井だ。
白矢は、ふうむ……と考えながら、膝を折り、体を丸める。
どこかで、遠く昔に、主はあんな瞳をしていた。
その時も、誰かが自分に触れていた。
白矢はそれが誰だったか、思い出そうとしたが、うららかな日差しの中でうとうとし出し、やがて眠りについた。