私の中におっさん(魔王)がいる。
「餌やり担当の部下が、そいつに触ろうとして黒田んとこの部下に止められたんだと。聞いた話じゃ、そいつは黒田以外には触らせねぇし、黒田以外の命令は利かねぇんだとよ」
「へえ、そうなんだ」
「ま、良いラングルだわな」
「そうなんですか?」
「民間ならともかく、軍のラングルはそういうやつの方がいい。つっても、大抵のラングルは穏やかで人懐こいから、こういうのはごく稀だろうな」
言って、アニキは赤い騎乗翼竜を見た。
「へえ」
「戦場で死んだやつのラングルを取られると、面倒な事も起こりうる。まあ、起こりうる可能性だけどな。それに、大抵乗ってる人間よりラングルの方が先に死ぬ」
「……なんか、可哀想ですね」
優しくて、穏やかで、だから人に利用される。
人を信じて懐くのに、その人よりも先に死ぬ。――殺される。
そんなのって、可哀想だ。
(せめて、飼い主だけはちゃんと大切に扱って欲しい)
でなければ、可愛そう過ぎる気がした。
私は目の前の赤い騎乗翼竜に目を向けた。
騎乗翼竜は私を一瞥する。
「まあな……。騎乗翼竜に愛着を持ってるやつは大勢いるしな」
「アニキも?」
「ああ……アニキ?」
「はっ!」
(ヤバイ!)
急いで手で口を塞ぐ。けど、今のはばっちり聞こえてたよね? 私はアニキの顔を恐る恐る見上げた。
アニキは驚いて目を見開いている。
できればなかったことにして欲しい!
「え、ええっと……その、実はですね。私兄弟が居なくて、花野井さんみたいなお兄さんがいたらなぁ……と勝手に……」
口に手を当てたまま、ごにゃごにゃと言い訳をしてみるけど、結局耐え切れずに手を離した。
「すみません!」
バッ!と、頭を下げる。
まるで、うっかり先生をお母さんと呼んでしまったときのように恥ずかしい。
私は、真っ赤になっているだろう顔を上げられなかった。
そこに、突如豪快な笑い声が響いた。
「――ハハハハッ!」
恐る恐る顔を上げると、アニキが爆笑していた。
(そんなに笑わなくても良いじゃない……)
ショックを受けている私に、アニキは手を合わせる。
「いや――スマン。スマン」
謝ってるけど、まだ含み笑いが口から飛び出している。
(だからそんなに笑わないでよ~っ!)
「いや、アニキなんて呼ばれたの何年ぶりだろうな」
「普段呼ばれてないんですか?」
意外だ。月鵬さんとかにも影で言われてそうなのに。
「ああ。俺をアニキと呼んだのは一人だけだ」
懐かしそうに微笑んだアニキは、見惚れるほどに寂しそうに見えた。
「呼んでくれるか?」
「え?」
「アニキって、呼んでくれるか?」
「……花野井さんが良いなら」
控えめに頷いた私に、アニキは微笑んだ。
その笑みにはもう、寂しそうな色はなかった。
「へえ、そうなんだ」
「ま、良いラングルだわな」
「そうなんですか?」
「民間ならともかく、軍のラングルはそういうやつの方がいい。つっても、大抵のラングルは穏やかで人懐こいから、こういうのはごく稀だろうな」
言って、アニキは赤い騎乗翼竜を見た。
「へえ」
「戦場で死んだやつのラングルを取られると、面倒な事も起こりうる。まあ、起こりうる可能性だけどな。それに、大抵乗ってる人間よりラングルの方が先に死ぬ」
「……なんか、可哀想ですね」
優しくて、穏やかで、だから人に利用される。
人を信じて懐くのに、その人よりも先に死ぬ。――殺される。
そんなのって、可哀想だ。
(せめて、飼い主だけはちゃんと大切に扱って欲しい)
でなければ、可愛そう過ぎる気がした。
私は目の前の赤い騎乗翼竜に目を向けた。
騎乗翼竜は私を一瞥する。
「まあな……。騎乗翼竜に愛着を持ってるやつは大勢いるしな」
「アニキも?」
「ああ……アニキ?」
「はっ!」
(ヤバイ!)
急いで手で口を塞ぐ。けど、今のはばっちり聞こえてたよね? 私はアニキの顔を恐る恐る見上げた。
アニキは驚いて目を見開いている。
できればなかったことにして欲しい!
「え、ええっと……その、実はですね。私兄弟が居なくて、花野井さんみたいなお兄さんがいたらなぁ……と勝手に……」
口に手を当てたまま、ごにゃごにゃと言い訳をしてみるけど、結局耐え切れずに手を離した。
「すみません!」
バッ!と、頭を下げる。
まるで、うっかり先生をお母さんと呼んでしまったときのように恥ずかしい。
私は、真っ赤になっているだろう顔を上げられなかった。
そこに、突如豪快な笑い声が響いた。
「――ハハハハッ!」
恐る恐る顔を上げると、アニキが爆笑していた。
(そんなに笑わなくても良いじゃない……)
ショックを受けている私に、アニキは手を合わせる。
「いや――スマン。スマン」
謝ってるけど、まだ含み笑いが口から飛び出している。
(だからそんなに笑わないでよ~っ!)
「いや、アニキなんて呼ばれたの何年ぶりだろうな」
「普段呼ばれてないんですか?」
意外だ。月鵬さんとかにも影で言われてそうなのに。
「ああ。俺をアニキと呼んだのは一人だけだ」
懐かしそうに微笑んだアニキは、見惚れるほどに寂しそうに見えた。
「呼んでくれるか?」
「え?」
「アニキって、呼んでくれるか?」
「……花野井さんが良いなら」
控えめに頷いた私に、アニキは微笑んだ。
その笑みにはもう、寂しそうな色はなかった。