私の中におっさん(魔王)がいる。
「なんだろう、今の?」
朝起きてすぐに走ったからかな? でもいつもは空耳なんてないのに。男とも、女ともつかない声音だった。
「変なの!」
私がそう吐き捨てた瞬間だった。
前方から、アスファルトの地面が急に黒く暗く染まっていった。
「なに!?」
驚いた私を、前から歩いてきていたスーツ姿の男性が不審な目で見た。
(いやいや、地面、変ですよね!?)
きょろきょろする私を、男性はさらに怪しげに見て通り過ぎてしまう。
「なんで!?」
思わず叫んだ私を、ちらりと振り返り、男性は首を傾げて歩調を速めた。
「完全におかしいやつだと思われた……でも、」
明らかにおかしい。
前方どころか、真っ直ぐに続く後方もすでに真っ黒な地面になってるのに、男性はまるで気にしてない。そのまま住宅の角を曲がっていってしまった。
「……私にしか、見えてないの? 幻覚?」
不安に押しつぶされそうになった瞬間、あっという間に闇は横に広がり、それまでもが黒く塗りつぶされた。
「やだ……なんなの?」
恐怖ですくんだ私の足を、何かが掴んだ。
「キャア!」
地面の闇が蠢く影のようになり、私の足に絡みついてくる。
「いやぁー! 助けて!」
叫んだ途端、影に全身を捕まれてしまった。