私の中におっさん(魔王)がいる。
「すみません、私の鞄ってどこですか? スマホ入ってるので、両親に連絡もしたいし。さっきの部屋にはなかったみたいなので……預かってたりしません?」

 みんなは不思議そうな顔で互いの顔を見合わせた。毛利さんは無表情だったけど。

「申し訳ございません。鞄は見ておりません」
「あのさ、スマホってなに?」

 好奇心が見え隠れしながら、雪村くんが訊く。

「スマホは、スマートフォンの略で……。いやいや、からかわないでくださいよ。スマホ知らない人なんていないじゃないですか」

 苦笑すると、雪村くんはきょとんとして首を捻った。
(えっ、本気!? スマホ知らない人なんているんだ)

「いや、とにかく! 私帰りたいんです。鞄がないんなら、ここがどこなのか教えてください! 自力で近場の駅にでも行くので!」

 幸いポケットに電子マネー入ってるし。――入ってるよね? 不安になって、スカートのポケットに手を突っ込むと薄くて四角い感覚がある。

(良かったぁ。入ってた!)

「ですから、申し訳ございませんがお帰しできないんです」

 風間さんが申し訳なさそうに頭を下げる。

「貴女がやってきたのは、我々にしてみれば、想定外の事故のようなもので……正直申し上げて、帰し方がわからないのです」
「異世界のやつなんて、初めて見たしなぁ!」

 豪快に笑って、花野井さんが酒瓶を煽る。

「可哀想だが、嬢ちゃん。もうしばらく、ここにいるしかねぇな」
「そういうことだな」
(……え、マジ?)

 真面目そうな毛利さんや、年長者っぽい花野井さんまでそんな、異世界なんて変なこと言うなんて……。
 私は五人を見回す。
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