私の中におっさん(魔王)がいる。
「つまり、我らは絶好の好機の最中にいるというわけだ。見知らぬ世界で、寄る辺もなく、頼る人間などいるはずがない。そこに現れた俺達には恋愛感情を持ち易い……と?」
「そういうことになりますね」

 風間は少し困ったように笑う。それは、能面のような無表情に隠された含みを感じ取ったからかも知れない。

「なるほどね」

 黒田は面白そうに顎を引いた。

「でもぼく、タイプじゃないんだよなぁ」
「んじゃ、降りるか?」

 めんどうそうに呟くと、花野井がからかうような声を上げた。黒田は、あからさまにムッとした表情をした。

「降りるわけないだろ。ぼくは当初の予定通り、力で勝負しても良いんだけどね、おっさん。ライバル減らした方が得策でしょ?」

 挑発するように口の端を上げた黒田を、花野井は笑い飛ばした。

「ハッハッハ! 良いぜぇ、やるか小僧?」

 黒田の髪をフードの上からわしゃわしゃと撫でる。黒田はその手を強く弾いた。

「魔王召還のために、協力しただけだって忘れないでくれる? 馴れ馴れしいんだよ」

 鋭い目つきで花野井を睨んで、威嚇するように低い声で吐き捨てた。

「あ? ガキがイキがるんじゃねぇぞ」
「ガキをなめんなよおっさん。ぶっ飛ばして恥じかかせてあげようか?」
「ああ!?」

 ピリッとした、一触即発の空気が流れる。
 毛利は馬鹿げていると冷眼視していたが、そこに咎めるような声がした。

「花野井さんは良いの? 生きた人間を使うの反対してたじゃん。女の子を利用するようなことして良いのかよ?」

 雪村だ。

「俺は生きた人間に憑依させるのは、死ぬリスクが高すぎるから反対してたんだ。お嬢ちゃんは無事憑依完了してるみたいだから問題はねぇだろ。それに、生きてりゃ操られてたとしたって慰めることも出来るからな」
「……ヤラシイ」

 にやりと笑った花野井に対し、黒田が軽蔑を込めて言う。

「ああ? ヤラシイって思うって事はヤラシイ想像したんだな小僧」
「うるさいな!」

 やいやいと言い合いを始めた二人を、雪村は複雑な表情で見やる。それを、風間が咎める瞳で見ていた。
 客観的に様子を見ていた毛利は密かに笑み、提案を口にした。

「では、小娘を落とした者が〝魔王〟の力を手にするという事で異論はないな?」

 一同は互いに見合って、静かに頷いた。


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