私の中におっさん(魔王)がいる。
「覚えておいでですか?」
「え?」
「昨夜、谷中様が降り立った場所ですよ」
「……えっ、私が!?」

 驚きながら風間さんを見上げると、風間さんは、「ええ」と頷いた。

「結界が張ってあったので、この程度で済んだようですね。そうでなかったら、跡形もなく屋敷は吹っ飛んでいたでしょう」
「そうなんですか……。それは、なんか、すいません」
「いえ。お気になさらないでください! そんなつもりで言ったわけではないので」

 風間さんは少し慌てた風に手を振った。
 私は一応、ぺこりと頭を下げる。
 全然覚えてないんだけど、人様の物を破壊したっていうのはいけないもんね。

「谷中様のせいではありません。それに、被害を食い止めたのはひとえに雪村様のおかげですから。――ですから、あまり主にきつくあたらないでいただきたいのですよ。黒田様」
「え?」

 私は前を歩くクロちゃんを見た。クロちゃんは振り返って、皮肉たっぷりに笑う。

「風間さんってほ~んと、過保護なんだねぇ。でもさ、それは本人次第だよ。ぼくは本当のことしか言わないからねぇ」

 風間さんはあいかわらず柔和な笑顔だし、クロちゃんもにっこり笑ってる――んだけど、なんかすごくピリピリとしてる。

「あ~あの! 風間さん、主ってなんですか?」

 私は無理矢理話題を変えた。
 風間さんはクロちゃんから目線を逸らして、私に向けた。

「主とは、仕える者のことです。私は雪村様に仕えております」
「ってことは、執事みたいなことですか?」
「ええ。執事ですよ」
「えっ! 本当に執事だったんですか!」
「はい」

 風間さんは不思議そうに小首を傾げた。

(執事なんてはじめて見たよ! イギリスにしかいないもんだと思ってた! コスプレじゃなかったんだぁ……)

 私は少し後ろを歩く風間さんを横目でちらちらと見てしまう。
 たしかに見た目も言動も執事って感じ。
 そんな風にしているうちに、屋敷の玄関まで来ていた。
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