私の中におっさん(魔王)がいる。
 玄関の扉は大きくて立派だった。木材の扉に赤みをおびた綺麗なガラスのようなものが数枚、装飾として埋め込まれている。
 緑や青、赤、黄色といった色のついたガラス球のような物もはめ込まれていた。

 玄関の扉を花野井さん――こと、アニキが開けて、私達は屋敷の中へと入った。迎え入れてくれた玄関の土間は広々としていて、物が何も置かれてなかった。
 靴箱もない。
 
 その先には、長い廊下が続いていた。
 私は、彼らの、主に風間さんの案内するままに廊下を進んだ。

「ここで良いでしょう」

 そう静かに告げて、風間さんの足は止まった。
 障子を開けると、その部屋は十畳程度の和室だった。あいかわらず照明器具も家具もない。
 部屋に入った私達は、自然と輪になるように座った。
 風間さんはジャケットの内ポケットから、雪村くんが出したような紙を取り出した。さっきの紙よりも茶色っぽく、書いてある文字も違うみたい。

「フッ!」

 風間さんが気合を入れると、紙が滲むようにして消えていき、それと同時に巻物が現れた。
 その巻物を私の目の前に広げる。
 
「世界地図になります」
(すっごーい! 手品みたい! この世界の人って、こんなことまで出来るの!?)
 感動してたら、アニキが私にそっと耳打ちした。

「物体を別の場所に飛ばせるのは『空間把握・操作能力』保有の三条家の人間だけだからな。いわゆる、結界師だ」
「へえ……そうなんですね」

 小さく呟いて頷く。
 あれ? でも、三条家の人間にしか出来ない――ということは、たしか雪村くんが三条って名字だったはずだから、風間さんと雪村くんって血縁者ってこと? 全然似てないけど……。それに二人って主従関係なんだよね?

 私は二人を交互に見た。
 風間さんは柔和でいてしっかりした人って感じ。雪村くんはのほほ~んと暢気な顔をしている。似てるのは目の色くらいで、顔立ちも性格も全然違う。どっちもイケメンって点では一緒だけど。

「地図、ご覧になられないのですか?」
「あ、すみません!」

 風間さんに困ったように促されて、私は慌てて地図に視線を移した。
 陸の大きさ、広さなんかはわからないけど、私の世界よりも国が少ない。全部で九ヶ国しかない。

 それに、私の知っている世界地図とはだいぶ違う。まるで、龍のような形をしていた。日本の地形にかなり近い。日本は龍が身体をそらせているような形だけど、こちらは逆に少し丸まっているような形だ。



 怠輪という国が龍の頭のような形をしていて、ちょうど眼の位置に陸がないのかぽっかりと空いていて、眼があるように見える。これは海なのかもしれないし、琵琶湖のような湖なのかも知れない。

 怠輪(たいわ)に続く陸はなく、隣国の千葉(せんよう)との間には海が隔たっていた。なんか、怠輪は北海道みたいだ。

 千葉(せんよう)、爛(らん)、岐附(ぎふ)という国が、ちょうど龍の背のような形で陸続きになっている。
 地図で見た感じだと、三ヶ国とも大国みたい。
 
 岐附と功歩(こうふ)の間に海あって、岐附と功附を結ぶように美章(びしょう)という半島があった。美章国は龍の手の位置にあって、少し飛び出ているので、本当に龍の手みたいだ。
 見ようによっては、大国に挟まれた小国のようにも見える。
 実際に地図上では岐附や功歩に比べて小さい。

 私達が今いる国が、倭和(やまと)だから……。つらつらと見て行くと、倭和国は、岐附と美章から離れた位置にあり、周りを海に囲まれている。ここは、島国なんだ。
 地形が歪な丸い形だから、なんとなく龍の玉のようにも見える。国の面積は一番小さい。
< 60 / 116 >

この作品をシェア

pagetop