私の中におっさん(魔王)がいる。
「あの、岐腑国って戦争中だったんですか?」
 しかも、烈将軍が立つほどの。
「ええ。三年前まで、岐腑を含め、世界中が戦っていました。なにせ、世界大戦だったのものですから」
「世界中の国が?」
 緊張が体を走った。
「ええ。九ヵ国すべての国が戦いました」
「い、今は?」
「安心してください。現在はどこの国も休戦中です」

 月鵬さんが、にこりとやさしく笑んだので、私は心底ほっとした。
 ただでさえ心細いのに、戦争になんか巻き込まれたくないもん。
 ほっと胸をなでおろした私を見て、月鵬さんがお膳を手のひらで指した。

「お食事が冷めてしまいます。どうぞお食べになって下さい」
「あ、はい。ありがとうございます」

 お膳に目を通すと、黒いお椀には、薄い黄色のお米。一匹まんまの焼き魚。菜っ葉の入ったお吸い物と沢庵のようなお漬物が並んでいた。
 普通の日本食みたいだけど……。味はどうなんだろう?
 
「いただきます」

 手を合わせてから、それぞれに手を付けてみる。
 まずはお米みたいなもの。これは玄米のような味がした。やわらかいというよりは、少しシャキシャキしてる。焼き魚は、火加減が抜群なのか、身がふわふわしてる。お吸い物は、味噌の味はしなかった。でも、出汁の味はした。まあまあ美味しい。
 漬物は、そのまんま沢庵だった。
 ポリポリした歯ごたえが、食欲を誘う。
(なんだ、日本食じゃん)
 安心したのと同時に、ちょっと残念だった。見た事もない、異世界って感じの料理をどっかで期待してのかも。

「――ふう!」

 満足、満腹だ! お腹をぽんぽんと叩くと、月鵬さんがくすっと微笑んだ。
 私は気恥ずかしくて、口をもにょっと動かした。照れ隠しに、何気なく訊く。

「アニ――花野井さんって、将軍なんですよね? 他の、毛利さんとかも将軍だったりするんですか? ゴンゴドーラを一刀両断にしてたし」
「それは……」

 月鵬さんは何故か言葉を濁した。そして、申し訳なさそうに微苦笑する。

「すみません。それは、私の口からは申し上げられないことだと思います。ご本人様か、従者の方にお訪ねになってください」
「え?」

 月鵬さんは深々と頭を下げて部屋をあとにした。
(教えてくれても良いのに)
 私は口を窄めて、月鵬さんが出て行った障子を見ていた。


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