私の中におっさん(魔王)がいる。
「お疲れ様です。これで、結界も正常に戻りましたね」
(ああ、結界を直してたんだ)
 風間さんが雪村くんを労ったけど、雪村くんは真剣な表情を崩さなかった。

「中心は平気か?」
「……ええ。大丈夫です」

 雪村くんに訊かれた風間さんは目を閉じて、何かを探るような顔をしてから、安心したように答えた。
 雪村くんって、照れたりとかぼーっとしたりとか頼りない印象だったけど、あんな風に真剣な顔もするんだ。

「谷中様、何か御用ですか?」

飛んできた声に思わず身を竦める。

「なんでバレたんだろ?」

 呟いてから、私は隠れていた茂みから出た。
 風間さんはにこやかに笑っていたけど、雪村くんは私に気づかなかったみたいで驚いていた。

「すいません。覗くつもりはなかったんですけど、屋敷を探検しようと思ってたら、お二人を見かけて……」
「ああ」

 風間さんは納得したように頷いて、ジャケットの内ポケットから水色の紙を取り出した。色は違うけど、門の前で見た長方形の呪符のような紙だ。

「これをどうぞ」
「えっ、あ、ありがとうございます」

 とりあえずお礼を言って、渡された紙を受け取る。

「同じ廊下をぐるぐると回っているような気がしませんでしたか?」
「しました!」

 私はびっくりして顎を引く。

「この屋敷には呪術が施されていて、この呪符を持ってない者は自分がいる区画内をぐるぐるとさ迷うことになるんですよ」
「そうなんですか!」

(っていうか、やっぱりこれ呪符なんだ)
 私は渡された呪符をまじまじと見た。水色の紙に、赤い墨で文字なのか、絵なのか、良く分からないものが描いてある。

< 69 / 116 >

この作品をシェア

pagetop