私の中におっさん(魔王)がいる。
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薄暗い部屋で、風間は深いため息をついた。
心底呆れていた。
「いったい誰が覗きなさいと言いました? 私は夜月でも見て口説いてきなさいと言ったんです」
「まあ、無理だと思っていましたが」とぽつりと呟くと、
「だいたいなんで着替えなんて取りに行ったんですか?」
突き放すようなに言った。
「だって、必要だと思って……黒田くんが女性はキレイ好きだから着替えは必要だよって言ったから、そりゃそうだなって思ったんだよ!」
「……黒田?」
黒田の名前を聞いた途端に、険のある表情に変わった風間を、怪訝に雪村が覘き見た。
「どこで会ったんです?」
「彼女を送って、すぐに」
「雪村様が着替えを取りに行くとき黒田は?」
「さあ?」
先程の険のある表情ではないものの、どことなく険しい顔をしている風間とは対照的に、雪村はあっけらかんとしていた。
なにも考えていないのがみえみえだ。
「……その後、また会いました?」
若干呆れたように訊きながら、風間は腕を組んで直立不動だった体制を崩した。
そのようすに雪村は自分がなにかまずいことをしたのかと若干ながら不安になった。
「うん……着替えを戸の前に置こうとしたら、下に置くのは汚いから、今なら入っても大丈夫なんじゃない? 女性は長風呂だからね。って言われて――」
「開けたら覗き魔となった――と」
「ほとんど見てねーよ!」
「そんな問題ではありません!」
ぴしゃりと言われて、雪村はぐっと黙り込んだ。
「あのクソガキ、さっそく仕掛けてきましたね……ふふっ!」
風間は笑った。微笑んだ。
これまでにない、さわやかな微笑みで。
雪村は怯えた。脅えきった。
これまでにないほどの、へたれっぷりで。