私の中におっさん(魔王)がいる。
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二週間後の深夜、ランプが煌々と燃える部屋で花野井は酒瓶をあおる。ぐびぐびと音を立てて、酒が腹へと流れ込んだ。
「カシラ、あんまり飲まないで下さいよ。同盟中とはいえ、敵陣の中にいるようなものなのですから」
月鵬は眉間にシワを寄せて、花野井に注意を促した。
「あ~はいはい。わかってるよ」
花野井は酒を飲みながら、手をぶらぶらと振る。月鵬は深くため息をついた。澄んだ緑色の瞳を向ける。
「いくらなんでもあの人の命令だからって、良いのですか? いたいけな少女を騙すなんて」
言葉の端々に嫌味がまざる。そして、月鵬は言い辛そうに言葉を口にした。
「それに、恋愛だなんて……あの人のことはもう良いのですか?」
表情からは花野井を心配しているのが見て取れたが、花野井はその問いには答えない。
「恋愛だなんて大層なもんじゃねえよ。ようはあのお嬢ちゃんを落とせば良いんだろ。今までの女と変わりゃしねえよ。――明日っから落としにかかんぞぉ!」
花野井は明るく言って、立ち上がった。
「便所行ってくるわ」
気だるそうに言って部屋を出ようとする背中に、月鵬は憤りをぶつけた。
「ゆりちゃんは良い子ですよ」
花野井は何も言わず、表情も変えずに部屋を出る。
だが廊下に踏み出した途端、表情が崩れた。
「わかってんだよ、んなことは!」
苦々しく歪められた表情は、悔しさなのか、哀しさなのか――呟く声に憤りが宿っていた。