私の中におっさん(魔王)がいる。
そこには切れ長な金の瞳……。
「も、毛利さん!」
思わず声が上ずった。
(落ち着いて! あれは夢なんだから!)
私は静かに深呼吸する。
「……柳はいるか?」
「はい。台所に」
良かった。普通に言えた。
「ところで、何を見ていたんだ?」
「あ、この呪符です。風間さんに貰ったんですけど、どうすれば別の区画に行けるのかわからなくって」
「……なるほどな」
毛利さんが頷いて、そっと手が伸ばした。私の手をそっと握る。
「え、あの?」
思わず驚いて小さく言葉を吐き出すと、毛利さんはそのまま私を引き寄せた。そのまま立たされて、その反動で毛利さんの胸へとぶつかるように包まれる。
(え!? なんなのこれ!?)
混乱する中で、ふわりと上品な香りが洟(はな)を擽(くすぐ)った。
良い匂いだな。うっとりとした気分になると同時に、どこかで嗅いだような気がする。たしか、昨夜――。
「おい」
「――っ、はい!」
我に帰ると、毛利さんの手は既に離されていて、私はずっと毛利さんにくっついていた。
「す、すいませんっ!」
慌てて離れる。
(いやあ! 恥ずかしいっ!)
「呪符の使い方を教えてやろうか?」
「えっ! あ、はい。ぜひお願いします!」
ほんの一瞬だけ、毛利さんが薄く笑ったような気がした。まあ、気のせいだよね。
「呪符は、思念を感じ取る」
「思念?」
「このエリアに行きたいと思いながら歩けば良いだけだ」
「へえ……それだけ?」
「ああ――たとえば」
毛利さんはそっと手を伸ばし、私の手ごと呪符を掴んだ。毛利さんの大きくて、きれいな手に、私の手はすっぽりと包まれてしまう。
そしてそのまま私の後ろへと回った。
毛利さんの整った顔が、肩越しに映る。
(うわああ! 心臓が、爆発しそう!)
「試しに南の区画に行きたいとイメージしてみろ」
毛利さんの声が耳元で囁いた。
気がつくといつの間にか、お腹に腕を回されて、後ろから抱きしめられる形になっていた。
(ど、どうしよう。これは、さすがに振りほどくべき?)
「はやくイメージしろ」
こんな状況で、イメージなんて出来るわけないじゃん!
「昨夜の――」
「え?」
急に落ちたトーンに思わず振向きかけた。
金色の瞳と目が合う。
毛利さんの筋の通った鼻と、頬が僅かにぶつかる。
唇との距離が、僅かだ。
「昨夜のことは夢ではない」
「……え?」
目の前に影が落ちた。
やわらかい感触。
閉じられた金の瞳。
頬にぶつかる、少し硬くて少しやわらかい、くちびる。
「俺は、貴様を手に入れる」
真剣な眼差しが、心を射抜く。一気に体温が上昇した。
「だが、昨夜はすまなかった。――イメージして歩け」
呆然とする私に素っ気無くそう言い残して、毛利さんは去った。私は、その姿を茫然と見送っていた。
しばらくして、やっと瞬きをする。
「今の、なに?」
私はその場に座り込んだ。
夢じゃなかった? じゃあ、昨日本当に?
「っていうか、私、今――告白された!?」
ボッと顔に火が昇るのを感じる。押さえた頬が、出来立てのホットミルクみたいに熱い。
「どきどきする」
私はうるさく打ちつける心臓を押さえるように蹲る。
この胸のドキドキは、恐怖からだけじゃないことは、一向に下がる気配のない体温でわかった。
「も、毛利さん!」
思わず声が上ずった。
(落ち着いて! あれは夢なんだから!)
私は静かに深呼吸する。
「……柳はいるか?」
「はい。台所に」
良かった。普通に言えた。
「ところで、何を見ていたんだ?」
「あ、この呪符です。風間さんに貰ったんですけど、どうすれば別の区画に行けるのかわからなくって」
「……なるほどな」
毛利さんが頷いて、そっと手が伸ばした。私の手をそっと握る。
「え、あの?」
思わず驚いて小さく言葉を吐き出すと、毛利さんはそのまま私を引き寄せた。そのまま立たされて、その反動で毛利さんの胸へとぶつかるように包まれる。
(え!? なんなのこれ!?)
混乱する中で、ふわりと上品な香りが洟(はな)を擽(くすぐ)った。
良い匂いだな。うっとりとした気分になると同時に、どこかで嗅いだような気がする。たしか、昨夜――。
「おい」
「――っ、はい!」
我に帰ると、毛利さんの手は既に離されていて、私はずっと毛利さんにくっついていた。
「す、すいませんっ!」
慌てて離れる。
(いやあ! 恥ずかしいっ!)
「呪符の使い方を教えてやろうか?」
「えっ! あ、はい。ぜひお願いします!」
ほんの一瞬だけ、毛利さんが薄く笑ったような気がした。まあ、気のせいだよね。
「呪符は、思念を感じ取る」
「思念?」
「このエリアに行きたいと思いながら歩けば良いだけだ」
「へえ……それだけ?」
「ああ――たとえば」
毛利さんはそっと手を伸ばし、私の手ごと呪符を掴んだ。毛利さんの大きくて、きれいな手に、私の手はすっぽりと包まれてしまう。
そしてそのまま私の後ろへと回った。
毛利さんの整った顔が、肩越しに映る。
(うわああ! 心臓が、爆発しそう!)
「試しに南の区画に行きたいとイメージしてみろ」
毛利さんの声が耳元で囁いた。
気がつくといつの間にか、お腹に腕を回されて、後ろから抱きしめられる形になっていた。
(ど、どうしよう。これは、さすがに振りほどくべき?)
「はやくイメージしろ」
こんな状況で、イメージなんて出来るわけないじゃん!
「昨夜の――」
「え?」
急に落ちたトーンに思わず振向きかけた。
金色の瞳と目が合う。
毛利さんの筋の通った鼻と、頬が僅かにぶつかる。
唇との距離が、僅かだ。
「昨夜のことは夢ではない」
「……え?」
目の前に影が落ちた。
やわらかい感触。
閉じられた金の瞳。
頬にぶつかる、少し硬くて少しやわらかい、くちびる。
「俺は、貴様を手に入れる」
真剣な眼差しが、心を射抜く。一気に体温が上昇した。
「だが、昨夜はすまなかった。――イメージして歩け」
呆然とする私に素っ気無くそう言い残して、毛利さんは去った。私は、その姿を茫然と見送っていた。
しばらくして、やっと瞬きをする。
「今の、なに?」
私はその場に座り込んだ。
夢じゃなかった? じゃあ、昨日本当に?
「っていうか、私、今――告白された!?」
ボッと顔に火が昇るのを感じる。押さえた頬が、出来立てのホットミルクみたいに熱い。
「どきどきする」
私はうるさく打ちつける心臓を押さえるように蹲る。
この胸のドキドキは、恐怖からだけじゃないことは、一向に下がる気配のない体温でわかった。