私の中におっさん(魔王)がいる。
「びっくりしましたよ。急に現れたんで」
「え?」

 辺りを見回すと、縁側にいたはずなのに、廊下にいる。転移が成功したみたい。

「やった! あっ、すみませんでした。ぶつかってしまって」
「いえ、良いんすよ」

 翼さんは軽く言って笑ってくれた。ちょっと顔は怖いけど、翼さんに話し聞いてみようかな。

「あの、翼さんに訊きたいことがあるんですけど」
「訊きたいこと?」
「お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫っすよ!」

 おずおずと尋ねると、翼さんは明るくニカッと笑った。
(良いひとぉおぉ~!)

 その笑顔を見た瞬間、私の警戒心は一気に降下。途端にゼロへと変わった。私ってば笑顔フェチな上に、ギャップ萌えで単純で、我ながら呆れちゃうけど、しょうがない。笑顔のステキな人に悪い人はいないんだから!


 * * *


 翼さんが天気が良いのに室内にいるのはもったいないと言って、縁側へ案内してくれた。その途中で通った部屋から人の話し声が聞こえてきて、風間さんが言ってたみたいにこの屋敷にも他に人がいるんだと実感してしまった。

 縁側に出るとあいにく空は薄曇になってしまっていたけど、紅葉のような赤々とした木々が、遠くの塀沿いに並んでいてきれいだ。縁側の近くにも数本、同じ木が立っていた。
 そこかしこに風情のある岩が転々と置かれ、縁側の手前にはそれほど小さな池があった。

 中央区画の中庭は小さいし、東の区画の庭は、葉が丸く切られている木や、松に似た木、花のついた木、それが迷路のように並んでいたけれど、ここの区画は格段に見通しが良い。

「ここってどの区画なんですか?」
「北の区画っすよ」
「へえ~、そうなんですか……」

 北と言うくらいだから、ゆりはもっと閑散としているのかと思ってた。

「私の国にも、あの赤い葉っぱの木に似た木があるんですよ」
「へえ……なんていう木なんすか?」
「紅葉ですね」
「紅葉っすか。じゃあ、似てますね。あれは美樹(ミジ)っていうんすよ」
「へえ~! も、がないだけですね!」
「っすね~!」

 あははははっ! と、二人して声に出して笑うと、ほのぼのとした空気が流れた。
 それにしても、翼さんとちゃんと話すのは初めてだけど、こんな風に砕けた話し方の人だったなんて意外。
 見た目がヤクザ――もとい恐持てだから、もっと乱暴か硬い言葉で話すイメージだった。

「それで、訊きたい事ってなんなんすか?」
「え~っと、それはですね」
 いざとなると訊き辛いな……。私は少し迷ってから、
「この世界で三年前まであった戦争のことなんですけど、どんなだったんですか?」

 翼さんは少し考える風にして、

「美章は先の大戦で一番被害が多かったって聞きました?」
「はい。多分どこかで。でも、爛も国が滅ぼされる寸前だったんですよね? 王都に攻め込まれたとか?」
「まあ、それはそうっすけどねぇ」

 言葉を濁してから、難しそうな顔をする。
 なんか違ったのかな?

「爛の場合は、千葉国と戦ってたんすよ。爛の王都は国の中心部より、白海側にあって、白海ってのは爛の内海になるんすけど、そこから予期せず怠輪に攻め込まれちゃったもんだから、対応し切れなくて一気に王都になだれ込まれたって感じなんすよ。貴女の国がどうかは知りませんが、ここじゃ軍てのは、ドラゴンと能力者と一般人で編制されて一団となるわけっすけど、能力者はもちろんのことドラゴンってのも重要になるわけっす」
「ドラゴン……」
 
 ゴンゴドーラが思い浮かんだ。あんなのに人間が襲われたらひとたまりもないよ。銃があれば応戦できそうだけど、ここには銃やミサイルなんかの重火器は存在してないらしいし。

「今いる倭和国がどうして最強って言われてるか判ります?」

 私は首を横に振る。やっぱり最強なんだ、この国って。
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