私の中におっさん(魔王)がいる。
第十話・大戦の話を聞きました。
 私は縁側で呪符を見つめた。すっと吹いて来た風が冷たい。どうやらこの世界は今は秋らしい。
 昨日はドキドキが治まらなくて、結局部屋でごろごろしてたらいつの間にか寝てしまっていた。楽しみにしていたウロガンドの目覚まし音も屋敷探索も御破算。用意してもらった遅めの朝食は、夕食にはや代わり。
 なんとも残念なような、贅沢なような一日が過ぎ、私はまた屋敷探索に乗り出すべく呪符を見つめる。
 昨日同様、私は昼食という名のおやつタイムの食事を待っていた。だって、昨夜はあんまり眠れなくて……。昼寝が過ぎたわけじゃないのは、自覚してる。
 不意に毛利さんの顔が浮かんできて、ドキドキしそうな自分を首を振って振り払った。

 本当は家に帰る術を探したいんだけど、今いる国、倭和(ヤマト)国は国土の殆どがドラゴンの住処という恐ろしいところで、屋敷の外に出たくても出られない。
 代わりに風間さん達が帰る方法を探してくれている。

 ちなみにこの倭和国はアニキから聞いた話だと、永久中立国で、攻め込まれない限り戦わないという比較的平和主義な国柄らしい。それでも、先の大戦で攻め込んできた怠輪(タイワ)国の二万におよぶ軍勢を一人残らず、捕虜も出さす、皆殺しにしたっていうんだから、怖すぎる。平和主義とはとても呼べない気がする。
 怠輪国はそれまで鎖国していて、千葉(センヨウ)国の一部としか国交を開いておらず、なんで戦争に出張ってきたのかわからないってアニキは首を捻ってたっけ。

 なんでも一部では、この倭和国には凶暴なアジダハーカという魔竜が存在していて、とある部族に守られて眠っているという噂があるらしい。
 実際にその部族はこの倭和国にいて、強い上に、政府の言うことを利かないって問題視されてるらしい。けど、干渉しない限り安全らしい。
 アニキはその伝説だか噂だかを信じて進軍したんじゃないかって言ってた。けど、話を聞いてた風間さんが、だったら倭和国を襲う前に千葉国や爛(ラン)国を襲ったのはおかしいんじゃないですかって、反論していた。

 それもそうだなって、アニキは納得してたみたい。私はよく分からなかったけど、後から月鵬さんに聞いたら、どうやら千葉と爛は突然やってきた怠輪軍に相当な痛手を負わされたみたい。爛なんて、王都にまで侵攻されて滅ぼされる寸前だったって聞いた。
 だけど、戦争が終わったら、また鎖国状態に戻って、だんまりを決め込んでいるらしい。

 不気味な国ですよねと、月鵬さんが不穏な表情で呟いてたのが、なんだか印象的で不安になった。
 岐附は大丈夫だったのか心配になって訊いたら、岐附は怠輪には攻め込まれなかったみたいで一安心したけど、功歩軍に岐附の将軍が殺されたらしくって、すごく哀しそうな瞳をしてた。
 私が聞いた戦争の話はここまでだった。
 もしかしたら、月鵬さんの知り合いだったのかもと思ったら、もう何も訊けなかったんだよね。
 だけど、それぞれの国や大戦の話に少し興味が出てきたから、今から昼ごはんが出来る間、屋敷探索がてら誰かを捕まえて話を聞いてみようと思ってるんだけど、

「上手く転移できるかなぁ?」

 私は緊張しながら、とりあえず毎日、誰よりも長い時間お喋りしに来てくれるクロちゃんを思い浮かべた。
 縁側をゆっくりと歩きながら、目を瞑って歩いていると、不意に何かにぶつかった。
 びっくりして瞼を開くと、目の前に大きな背中があった。スーツ姿の男性は振り返ると驚いた顔をした。

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