私の中におっさん(魔王)がいる。
 つまらなそうに言ってるけど、今までとんでもないプレッシャーだってあったはずだよ。だって、色んな人の命を背負ってるんだもん。
 クロちゃんが自信家なのって、そういうプレッシャーをはねのけてきたからなのかも知れない。
 それを、この年で……。ううん、もっと前から……。

「クロちゃん」
「なに?」
「あのね、私がこんな事を言うのはおこがましいかも知れないけど、クロちゃんになに一人で抱えきれない事とかが起こったらいつでも私に言ってね」
「……は?」

 クロちゃんは唖然とした顔をした。
 そりゃそうだよね。唐突だもん。だけど、言いたい。

「クロちゃんは、すごい人だと思うけど、誰かに頼っても良い時ってあると思うの。年齢は関係なく、一人で抱えるのが辛い時って誰にだってあると思う。私は、聞くことしかできないと思うけど、誰かに喋る事で人って結構楽になれるところがあると思う」

 クロちゃんは偉い。
 だけど、クロちゃんだってまだ子供なんだ。私と同じ少年なんだ。そんな子が、これからも戦場に立つことがあるかも知れない。そう思ったら、やっぱり甘えられるところが必要だよ。
 それは翼さんのところでも、他の上司とか部下とか、家族とか友達とかでも良い。でも、少しでも安心できるそんな場所が少しでも多くあって欲しい。

「あんまり、気を張り過ぎないでね」

 クロちゃんは不意にフードを引っ張る。フードがさらに目深くなって、顔をそらした。その一瞬で、白い頬が赤く染まっていた気がした。
 もしかして、照れた?

「……ありがとう」
「どういたしまして」

 クロちゃんは、消えそうな声で呟く。
 こんなクロちゃん見るの初めて。私は良いことをした気分になって笑った。
 私もクロちゃん達のお世話になってるわけだし、ちょっとは力になりたい。

「あっ! 忘れてた!」
「なに!?」

 ふと思い出して声を上げた私に、クロちゃんは驚いて視線を向けた。

「今何時だろう?」

 スカートのポケットからウロガンドを取り出す。まだ時間まで三十分くらいある。

「ねえ、なに?」

 怪訝そうにクロちゃんが訊いた。

「お昼ご飯作ってもらってるから、時間になったら戻ることになってるの」

 昨日同様、月鵬さんにタイマーをつけてもらっていた。

「飯まだ食べてないの?」
「うん。寝坊しちゃって……」

 クロちゃんはあからさまに呆れた顔をした。

「しょうがないじゃない! 眠れなかったんだからぁ。毛利さ――」
「毛利?」
「いや、なんでもないっ!」

 慌てて、手をぶんぶんと振る。

「ねえ、ちょっと。あいつがなに?」

 クロちゃんの頬が若干引きつる。
 あれ、なんか怒ってる? 
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