私の中におっさん(魔王)がいる。
「ううん、何でもない」

 私は苦笑して小さく手を振った。

「ま、キミが呼んでくれるならなんでも良いけどね」

 不意にやわらかい声音でクロちゃんは囁いた。フードの奥の緑色の瞳がやさしく細められる。なんだか、ドキドキした。
(クロちゃんってこういうとこずるいんだよね。普段は生意気な感じなのに、いきなり王子様みたいなことしてくるから)

「じゃあ、やっぱりクロちゃんで!」
「え~? まあ……いいけどぉ」

 クロちゃんは、渋々承諾したあと、にこりと笑った。その瞬間、太陽を隠していた雲が切れて、クロちゃんを刺した。風が静かに吹いて、フードを揺らす。
 後ろに見える赤い葉が、妙に似合っていて、まるで一枚の絵画を見ているような気分になった。

(ああ、そっか。クロちゃんってやっぱり壮絶に顔良いんだ)

 私は唐突にそんなことを思った。
 一瞬だけ見えた気がしたフードの奥の素顔が、そう思わせたんだと思う。残念ながら、きちんとは見えなかったけど。

「ねえ、三関って将軍の次に偉い地位なんだっけ?」
「そうだよ」
「さっき、クロちゃん三関とか言ってなかった?」
「うん。ぼくそれだから」
「すごいね」
「でしょ!」

 クロちゃんはえっへんと胸を張る。

「でも、三関って具体的に何する人なの?」
「将軍が一万の兵を動かせる人だってのは知ってる?」
「どうだったかなぁ? 聞いたかも知れないけど……」
「まあ、そういう地位の人のことなの。で、三関はその下だから、二千から一万の軍を動かせる人のこと。下に行くほど動かせる人員の数が減ってくってだけで、やることは大体変わんないよ。兵の指揮して、動かして、戦って、ってそれだけ」

 つまらなさそうに言って、クロちゃんは肩を竦める。
 正直、私には一万とか千の兵なんて言われても良くわからない。
 そんな規模の人が一堂に会しているのなんて見たことがないから。でも、歌手とかアイドルとかのコンサートをテレビで見たときの、あの規模の人が軍隊だって考えたらぞっとした。
 私がそんな人達の指揮を取れって言われても、絶対に無理。でも、クロちゃんはそれをやってきたんだ。
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