私の中におっさん(魔王)がいる。


 * * *


 ゆりが手を振って前へ向き直ると、足を踏み出した。だが、ゆりは縁側に足をつけることなく消えた。

 中央にゆりが戻った事を、心なしか寂しく思う。
 そんな自分に気づかないふりをして、黒田はゆりの居なくなった縁側をただ見つめていた。
 不意に、瞳に憤怒の色が映る。

「毛利、あいつ」

 憎々しげに呟いて、黒田は舌打ち交じりに縁側を進んだ。



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