幼馴染との正しい距離感
「……先輩…」






「…ぎ先輩」






「つむぎ先輩?」

「…へ。あ、ごめん。何?」

「さっきからぼんやりして、大丈夫ですか?」



隣で書類に目を通していた
早川(はやかわ)君の声にも気付かないくらい
考え事に集中していた。



「大丈夫だよ」

「ならいいんですけど…」



気を取り直して、私も書類に目を通して
本棚を整理する。


放課後。


寄贈された本の整理を先生に頼まれて
ひとつ下の後輩の早川君と一緒に作業していた。


早川君は同じ図書委員。

図書委員は人数が少ないから
必然的に、こういう急な雑用は
下っ端の私と早川君にまわってくる。



「……そういえば、つむぎ先輩」

「ん?」

「つむぎ先輩って
矢橋先輩と付き合ってるんですか?」

「…」



ぴたっと手が止まる。


こーくんの名前を出されただけで
心臓がどきどきうるさい。



「…付き合ってないよ」

「なら、つむぎ先輩は好きな人いないんですか」

「…内緒」



……そんな風にはぐらかしてしまったけど
頭の中には、いつも傍にいる男の子の姿が浮かぶ。



「…」



曖昧に答えた私に早川君はどこか不服そうな顔。


不思議に思って問いかける。
< 29 / 57 >

この作品をシェア

pagetop