冬の王子様の想い人
手を振り返して自身の靴箱に向かい、靴を履きかえて一番近い階段の前に向かうと雪華が待っていた。


「ねえ、ひとりで大丈夫だよ?」

今日も遠慮がちに言うと、雪華は軽く眉間に皺を寄せる。

「俺がナナを送りたいんだ」

通学を共にするようになってから、毎朝教室の前まで送ってくれる。
私たちの教室は離れているし、どう考えても遠回りだからいいと何回言っても譲らない。


『ナナは変なところで抜けてるから心配なんだ』

……余計なお世話よ。

『変な奴に捕まったらどうするんだ』

……この校舎の中で雪華以外の誰に捕まるのか教えてほしい。


言い出したら聞かないから受け入れてやって、本気でナナちゃんを心配してるんだ、と楠本くんは今日も困ったように言って、先に自身の教室に向かう。


『ナナちゃんは雪華にとって誰より特別なんだよ』


今日までに何度も楠本くんに言われたが、そんなわけはない。
ただ心配されているだけだって十分すぎるくらいに理解している。
< 39 / 154 >

この作品をシェア

pagetop