冬の王子様の想い人
「後輩のくせに生意気よ!」

掴みかかるような仕草を見せられ、思わず一歩下がると小山内さんの間延びした声が背後から響いた。


「おや、どうかしたかね?」

振り返ると、小山内さんはいつものように柔和な表情を浮かべている。今、この場所には先輩たちと私、小山内さんしかいない。

「……なにもないわよ」

無愛想に長い髪の先輩が言うと、小山内さんはそうかね、と穏やかに返事する。


「すみません、二年六組ですけど、用具はこれですか?」

横から長身の男子生徒に声をかけられた。

「ええっと、それではなくてあの植え込みの横に置いてあるものです」

慌てて返事をする。

「どれですか?」

尋ねられて、これ幸いとその場を抜けて案内しようとすると、先輩たちの声が追ってくる。


「ちょっと私たちまだ用具もらってないわよ?」

小山内さんが前に進み出てくれたが、小さく首を横に振る。迷惑はかけられない。

「小山内さん、すみません。二年六組の委員に場所を教えてもらえませんか?」
「……大丈夫かい?」

気遣いに小さく頷くと、心配そうな表情を浮かべながらも男子生徒の方に向かってくれた。その姿を目の端で確認して先輩たちに用具を渡す。

「……これです」
「ふうん」

意外にも好戦的だったふたりはあっさりそう言った。


その態度を不自然だと思いつつもきっと小山内さんが近くにいるからだろうと安易に考えた。
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