冬の王子様の想い人
「ナナ!」


その時、焦った声で名前を呼ばれた。

「どうした? 大丈夫か?」

目の前で雪華が額に汗を滲ませ跪き、ジャージが汚れるのも厭わず正面から覗き込んでいた。


「……雪華?」

思わず名前を呼ぶと、鼻の奥がツンとして胸の中に熱い気持ちがこみ上げた。


「……遅くなってごめん。怪我させてごめん」

とても弱々しい声で謝罪された。


雪華のせいではないのに、目には悲痛の色が浮かんでいる。私の頬を撫で、唐突に膝裏と背中に手を回してふわりと横抱きにする。


「せ、雪華、血がつくし汚れる!」


驚いて叫ぶと、キャアッと用具を取りに来ていたほかのクラスの女子生徒たちから悲鳴が上がる。

「大丈夫だから、歩けるし重いから降ろして!」
「ダメ。暴れると落ちるぞ。ナナはすごく軽いから気にするな。足、痛いだろ」


まったく聞く耳をもってくれない。


こんなに細身なのに私が身じろぎしてもびくともしない。彼の香りに包まれてたちまち落ち着かなくなる。


「雪華っ」
「氷室くん、どうしてそんな子を助けるの?」

納得できない、と言わんばかりに髪の長い先輩が箒を手に立ちはだかる。


その声に鬱陶しそうに目を細めた彼の纏う雰囲気が、一気に冷酷なものに変わる。

今日は天気も良く、気温は三十度近くある。それなのに周囲には凍り付くような冷気が漂っている。
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