冬の王子様の想い人
「ナナ」


低い聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

……空耳? 人違い?


思わず左右を見回すけど、予想した人はいない。嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになる。


「ナナ、なにしてるの?」


突然右腕が後ろに引っ張られ、予期せぬ事態に身体が後ろに傾ぐ。

トン、と背中がなにか硬いものに受けとめられ、するりと腰に腕がまわる。


「ナナ」


耳元で囁かれた色香のこもった声に、背中に痺れがはしる。

恐る恐る振り返ると、隙のない完璧な容貌に極上の笑みを浮かべている雪華がいた。

けれど綺麗な目には温かみがまったく感じられない。


「せ、雪華……?」


なんでここにいるの?


「おはよう、ナナ」


当たり前のように挨拶をする、その口角を上げた表情がなんだか恐い。

ドクンドクンドクン。

心拍数が一気に上昇する。


「お、おはよう、あの、受けとめてくれてありがとう。もう大丈夫だから」

腰に回した片腕を解放して離れてほしい。

周囲からの注目が凄まじいし、なにより心臓がもたない。


「嫌」


それはそれは爽やかに白い歯を見せて否定する。


「なんで!」
「逃げるだろ」

悪びれた様子もなくあっさりと言う。


「逃げないよ」

触れられた腕から体温がじんわりと伝わって、背後から抱きしめられているみたいで落ち着かない。

髪に微かな息がかかり、身じろぎすらできなくなる。まるで以前の再現のようだ。
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