冬の王子様の想い人
「昨日のあれは逃げたんだよな? 電話も出ないし、メッセージも返してこない。なんで? 俺、なにかした? 心配だったしショックでなにも手につかなかった」

屈みこむように斜め上から顔を覗き込まれる。


「ごめん、なさい」

小さな声で謝罪するもその目の鋭さに言葉が詰まる。


「なにも話してくれないし避けられる理由がわからない。いきなり避けられたら傷つく」

腰を抱く腕にギュウッと力が込められてますます身体が密着し、纏う雰囲気が硬質なものに変わる。


「……ごめん。昨日、改めて雪華の人気を知って……ナツさんの話を聞いてちょっと動揺したの」

まさかあなたが好きだからショックを受けました、とは言えず、自分の気持ちに一番近い言葉を伝える。


「動揺?」


逃亡を阻止するかのように私の制バッグを巧みに取り上げた雪華が問い返す。


「……特別な女の子がいるんだな、って……」


自分から今はまだ認めたくないし、こんな言葉を使いたくないのに。


涙が滲んで胸がズキズキ痛みだす。


「……なんで泣きそうなの?」


先程までの意地悪で頑なな態度を軟化させた雪華が眉尻を下げた。
心配そうな声に心が軋む。


……こんなぐちゃぐちゃな姿を見ないで欲しい。


思わず俯くと、腰に回した腕を離し私の身体を反転させた雪華が私の頭をギュッと自身の胸元に押し付けた。

ぽんぽんと背中を大きな手が安心させるかのように撫で、温かな手つきに胸が詰まった。
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