冬の王子様の想い人
「朝からそんな可愛い表情、しない」


どこが可愛いの!?


反論しようと顔を上げると、泣きたくなるくらい優しい目とぶつかる。

好きな人の胸の中に収まっている状況に鼓動が狂ったように暴れだす。


「ナナ、それって嫉妬?」

小首を傾げて明るく尋ねてくる。


嫉妬? 
この割り切れないもやもやした答えの出ない感情は嫉妬なの? 


「俺はナナを取り巻くすべてに、いつも嫉妬してるよ? だから嫉妬してくれるなら嬉しいんだけど」


私の葛藤なんてどこ吹く風といったご機嫌な調子で耳元で囁く。その声にピクリと肩が跳ねて、鼓動がドクドクと暴走を始める。


「えっ?」


どういう意味?


思わず耳元に手を当てると、クスクス妖艶な囁きを漏らす。

「か、からかわないで」

涙目で反論するとすぐに、眉間に皺を寄せる。

「本気。もう決めたって言っただろ? その涙目、可愛すぎるからやめて。そんな目、ほかの男に見せたくない。そういうのは俺だけに見せて」


い、意味がわからない……!


狼狽える私をよそに長い指で目尻に滲む涙を当たり前のように拭ってくれる。

その優しい手つきに胸が震えた。


どうしてそんなに甘い台詞ばかり言うの?
あなたの大切な女の子は私じゃないでしょ?


喉元まで出かかった言葉は口に出せない。
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