溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
そう聞かずにはいられないほどに呼吸が乱れ、青ざめている。
もしかすると、今日受け持ちの患者さんになにかあった?
でもそれなら院内スマホを鳴らしてくれれば済む話だ。
「今すぐ院長室に行ってちょうだい」
「い、院長室!?」
予想だにしない単語が飛び出して目が点になる。就職してからこのかた、平社員の私は当然だけれど院長と話したこともない。
それどころか、院長には私なんて認識もされていないだろう。同じ病院にいても手の届かない雲の上の人だ。
そんな人がいったい私になんの用?
「私にも理由はかわからないんだけれど、とにかく早く行ってちょうだい」
言わずもがな、私の聞きたいことを察してくれたらしい。ただただ驚くことしかできなかったけれど、師長に急かされ病院の最上階にある院長室へと向かう。
最上階はまるで病院の中とは思えないほどの高級な空間が広がっていた。エレベーターを降りた瞬間、まず目に入ったのは床に敷き詰められたすみれ色の絨毯。
壁にはお世辞にもうまいとは言えないような、なにを現しているかわからない四号サイズの抽象画が飾られている。
廊下の突き当りに観音開きのドアがあって、そこが院長室のようだ。
絨毯を一歩一歩踏みしめ、恐る恐る進む。不安と緊張が入り混じってどうにかなってしまいそうだ。