溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
赤い絨毯の上を歩く足取りが重い。扉の前にドアマンの姿はなくひっそりとしていた。そこへポーンという軽快な音が小さく響く。どうやらエレベーターが到着したらしい。
扉が開いて中から出てきた人物に言葉を失う。それは向こうも同じだった。
「なんでおまえがここにいるんだ!」
顔を見るなりあからさまな敵意を向けられる。柊会長はこの前とまったく変わらない傍若無人な態度で、明らかに私を冷ややかに睨んだ。
急いできたのだろうか、額には汗が浮かび、どこかツラそうに顔をしかめている。身体をくの字に折り曲げて、お腹をさすりながらへっぴり腰だ。
「な、なんでと言われましても」
「天音は、天音はなぁ……うぐっ、くっ」
会長は前のめりに倒れ、両手でお腹を押さえて床にうずくまった。明らかに様子が変だ。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
「う、うる、さい……くっ」
そばまで走り寄り、急いで容態をチェックする。呼吸は荒く額には脂汗がびっしょり。私はとっさスーツの背広のボタンを外して、ネクタイをゆるめた。
シャツの一番上のボタンを開ける。万が一のことを考えて、気管が圧迫されないようにだ。
「お腹が痛いんですか?」
「うっ……」
声かけにも反応ができないほど余裕がない状態。