花とバスケと浴衣と
次の土曜、33の試合にミマが出ると教えてくれたのは、類先輩だった。ラインで見に来る?と聞かれ、千花はミマが出るなら見に行きます!と返事をした。大学のコートで他大学のチームとの練習試合だとミマから聞いて、応援に行くね、とミマに送ると、大丈夫?と聞かれた。何のことだろう?と思っていると、33の応援サークルも見に来ると思うよ、と言われて、千花はやっと先日の話を思い出した。類先輩と話したりしなければ、大丈夫だろうと千花は軽く考えて見に行くことにした。前日に、ミマへの差し入れとして、ミマの大好きな檸檬のはちみつ漬けを作って冷やし、熱中症と日焼けの対策をきちんとして、千花は大学へ向かった。今日は午後からバイトの予定なので、ミマが出ているところを少し見て、ミマに差し入れを渡したら直ぐに帰ろうと思っていた。
千花が着くと、コートの周りには既にかなりの人数が集まっていた。やはり33の応援サークルのメンバーが多いようで、千花を見て、ヒソヒソと話している様子が伺えた。やっぱりそうなるよね…と少し居心地の悪い思いを感じながら、ミマを探そうと、千花はコートが見える所へ移動した。コート内で既に練習を始めていたミマを見つけた。やっぱりミマはバスケが似合うな、と思いながらミマに早く気づいて!と視線を送っていると、ミマより先に、何故か長谷部先輩が千花に気づいた。
「千花ちゃん、ひさしぶり。元気にしてた?」
「ご無沙汰してます。お陰様で。」
後ろに33の応援サークルの人の視線を感じながら、千花は長谷部先輩に答えた。
「あれ以来全然来ないから類に酷いことでも言われてもう来ないのかと思ってたよ。」
今類先輩の名前をそんなでかい声で出さないでくれ…と思いながら、
「そんなんじゃないんですけど…今日はミマが出るって聞いたんで。」
「そうなんだ。混合チームで初試合。見応えあると思うよ。」
「あんまり長くいられないんですけど、楽しみです。」と答えていると、類先輩が近づいて来るのが見えた。ヤバイかな…と思っていると、類先輩が話しかけた。
「千花ちゃん、来てくれたんだ。」
「こんにちは。」少しぎこちなく挨拶をした千花に、類先輩は一瞬不思議そうな顔をした。
「類が冷たいから千花ちゃんもう見に来ないのかと思ってたよ。」余計なことを言う長谷部先輩に、類先輩が答えた。
「今日はオレが千花ちゃんを誘ったんだ。ミマちゃんが出るよって。」
「そうなの?」
後ろで聞き耳を立てているであろう応援サークルメンバーのことを思いながら、千花は曖昧に頷くだけにした。
「今日はちゃんと帽子かぶってきたんだね。」いつもの距離感で話しかける類先輩に、曖昧に微笑むと、一層不思議そうな顔をした類先輩は
「千花ちゃん、何かあった?」と聞いた。千花は、試合前の類先輩に心配をかけては申し訳ないと思い、努めて普通に笑って答えた。
「何もないですよ。もう倒れて迷惑かけるわけにはいかないんで、ちゃんと熱中症対策はしてきました。」
「えらいえらい。」と言いながら、類先輩が千花の帽子を撫でるように触った。二人で会っていた時もこんな風に気軽にスキンシップを取ることはなかったのに、突然の行動に千花は驚いた。
「類せんぱーい!」突然大声で応援サークルの方から誰かが類先輩を呼んだ。
「あ、呼ばれてる。ちょっと行ってくるわ。千花ちゃん、楽しんでいってね。」
「はい。頑張ってください。」
類先輩が離れて行って千花は少しホッとした。
「それ、類への差し入れじゃなかったの?」
長谷部先輩が千花の持っていた保冷バックを指して言った。この人は目ざといなと思いながら、
「いえ。これは、ミマに渡すつもりで作ってきたんで。」
「なんだ。そうなの?ミマちゃん呼ぼうか?」
「お願いできますか?」
「ミマちゃーん!千花ちゃん来てるよー。」大声で叫ぶ長谷部先輩のせいで、また注目を集めることになってしまった。この人に頼むんじゃなかったと思いながらも、走ってきたミマを見て、
「ありがとうございました。」とお礼を言った。
「千花来てくれたんだ。」
「うん。これ、ミマの好きな檸檬作ってきたよ。」
「ホントに?嬉しい。ありがとう。」
「ちょっと見たらバイトだから行くけど、頑張ってね。」
「そうなの?わざわざありがとね。」
「ううん。私もミマがバスケしてるの見るの好きだから。」ミマに保冷バックを渡して、千花は練習に戻るミマを見送った。類先輩はまだ応援サークルのメンバーに捕まって話をしているようだった。フジさんがホイッスルを吹いて、いよいよ試合が始まるようだ。類先輩がコートに戻って行く姿をやっぱりカッコイイよなーと何となく見ていると、類先輩は千花に向かって笑って手を上げた。千花は何となく笑って会釈をして答えた。
ミマが出る試合には類先輩も出ていた。千花はキビキビと動くミマをすごいな~と思いながら、やっぱりミマはバスケが似合ってカッコイイなと思った。ミマを追っているはずなのにいつの間にか類先輩が目に入ってきてしまう自分に、少し戸惑いながらも、まぁあれだけカッコイイ人だもんなーと自分で自分を納得させた。1セット目が終わって休憩に入り、千花は時間を確認して引き上げることにした。ミマも類先輩もかっこ良かったな、見に来てよかったなーと思いながら、千花はバイトへ向かった。珍しく帽子をかぶってパンツスタイルの千花を見て、奥さんは少し驚いていた。スリーオンスリーの試合を見に行っていたことを説明すると、奥さんは言った。
「デートだったのにバイトに来てよかったの?」
「デートじゃないですよ。友達の応援に言ってただけです。」
「そうなの?で、どうだった?」
「すごくかっこよかったです。私は絶対無理だけど、ほんと、ボール持った瞬間のミマの顔って、スイッチが入るっていうか何ていうか。」
「ミマの顔?」
「友達です。女の子なんですけど、背も高くて、すごいバスケ上手で。」
「女の子の友達?違うわよ。類くんよ。類くんはどうだったの?」
「類先輩もいつも通りかっこよかったですよ。ファンがいっぱい来て、キャーキャー言ってました。」
「やっぱりねー。私も見に行きたかったわ。」
「今度試合ある時、奥さんにも連絡しますね。」
「うん、おねがい。」
二人で声を上げて笑いながら、いつも通りの仕事をこなした。夕方、千花が店の奥で在庫のチェックをしながら、ミニブーケ用の花を選り分けていると、店頭に居た奥さんが千花を呼びに来た。
「千花ちゃん、お客さんよ。」
お客さんって、どういうことだろう?と思いながら千花は花を置いて店頭へ出た。背の高い後ろ姿が見えた。
「類先輩?」
「千花ちゃん、お疲れ様。ごめんね、バイト中なのに。」
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
「ちょっと千花ちゃんと話したくってさ。何時まで?」
「えっと、20時過ぎまでです。」
「わかった。終わる頃また迎えに来るよ。」
「え?」
「ダメ?その後何か予定ある?」
「いえ。大丈夫です。」
「うん。じゃぁまた後で。」
「はい。」
「すみません。バイト中に、お邪魔しました。また来ます。」
類先輩は奥にいる奥さんに挨拶をして出て行った。急にどうしたんだろう?何かあったのだろうか?千花は心配しながら類先輩を見送った。奥から出てきた奥さんは
「いやー、やっぱりイケメンねー。」
と嬉しそうな声で千花に話した。笑って答えながら、千花は急にバイト先まで来た類先輩のことが気になって仕方がなかった。

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