花とバスケと浴衣と
千花が連れていったお店は、こじんまりとした昔ながらの喫茶店だ。類先輩は外観を見て驚いていた。
「ココ?」
「そうです。意外でしょ?でも、ここのスイーツはハズレがないんですよ。」カランカランとドアのベルを鳴らして店内へ入ると、カウンターの叔父さんが
「いらっしゃい。」と声をかけた。千花が
「こんにちは、ご無沙汰してます。」と挨拶をすると、
「あぁ、あんた三高の。久しぶりだね。」
「はい、卒業以来です。」叔父さんは千花の後ろを見て一瞬驚いた顔をして、
「デートかい?」と聞いた。千花は少し恥ずかしいなと思いながら
「一応。」と笑うと、叔父さんは
「あっちでゆっくりしていきな。」と奥の席を指した。千花は
「ありがとうございます。」と奥の席へ類先輩を誘った。席に座ると、類先輩は言った。
「千花ちゃん、ホントに常連さんだったんだね。」
「あんまり冒険する勇気ないんで、いつもココに来てました。」
千花はメレンゲの檸檬タルトセットにアイスコーヒーをつけ、類先輩は、ここの名物でもあるオレンジピール入りのガトーショコラとアイスコーヒーを注文した。類先輩は意外と甘い物が好きなようだ。
「そういえば、この間の檸檬のやつって作るの大変?」
「全然大変じゃないですよ。ミマが好きだから、高校の時よく差し入れで作ってたんです。檸檬の酸味はスポーツで疲れてる時に良いって聞いたことがあって。」
「そうなんだ。はちみつだよね?」
「檸檬の皮を薄く剥いて、輪切りにして、岩塩を少しかけて、一晩はちみつに漬けとくだけなんで、簡単ですよ。」
「やっぱり皮なかったよね?」
「はい。皮剥かなくても作れるんですけど、ミマは皮が口に残る感じが嫌だって言ってたんで、私はいつも剥いてます。ワックスとかかかってる檸檬もありますしね。」
「なるほど。また作ってくれる?」
「あれくらいならいつでも。」
「炭酸水に入れても美味しそうだよね。はちみつレモンソーダ。」
「もっと暑くなってきたら、ちょっと凍らせて食べるのもおすすめです。」
話していると、叔父さんがケーキとタルトを運んできてくれた。
「最近は作ってないのかい?」
「はい。いくら頑張ってもここのケーキには敵わないから。」
「そうかい?あのチーズケーキはうちでも売れたと思うけどな。」
「ホントですか?じゃぁまた作ってみます。」千花と叔父さんの会話を類先輩は不思議そうな顔で見ていた。
「ま、ごゆっくり。」叔父さんがカウンターへ戻っていくと、類先輩が聞いた。
「何の話?」
「高校の時、お菓子作りにハマってたんです。叔父さんにも何回か味見してもらってたんで。」
「そうなんだ。」
「とりあえず、食べましょ。これは、ほんとに美味しいですから。」千花はそう言って、フォークを取った。メレンゲをサクッと割ってタルト生地を一口サイズに切り始めると、類先輩もフォークを持ってケーキを一口食べた。
「んー。千花ちゃんがおすすめする意味がわかったよ。確かにすごく美味しいね、コレ。甘いだけじゃなくて、ビターチョコレートの苦味も、オレンジピールの爽やかさもちゃんとあって、すごい美味しい。」千花は、少し興奮気味の類先輩を見て嬉しくなった。
「ですよね?良かった、類先輩に気に入ってもらえて。」千花も一口食べて、口の中でメレンゲが溶けていく感覚を久しぶりに感じ、そうそう、これこれ!と幸せな気持ちになった。
「千花ちゃん、今すっごい幸せそう。」
「美味しい物食べると、幸せな気分になりません?」
「まぁそうだね。ここは穴場だったなー。また来ようっと。」類先輩も気に入ったようで千花はホッとした。
「こっちも味見しますか?」千花が類先輩に聞くと、
「いいの?」と嬉しそうな顔で言うので、千花は笑いながらお皿を差し出すと、何故か類先輩は口を大きく開けて待っている。え?と千花が戸惑うと、
「あーんってしてくれないの?」と類先輩が言った。千花は思わず
「有り得ないです。自分で食べて下さい。」と言った。類先輩は、
「残念だな。」と笑って言いながら、自分のフォークでタルトを切って食べた。最初驚いた顔をした類先輩は、
「ナニコレ。初めて食べた。めっちゃ美味しいじゃん。」と嬉しそうにもう一口食べた。類先輩が高校時代の千花の話を聞きたがるので、ミマと同じクラスだった2年生の頃の話をスマホの写真を見せながらしていると、
「あれ?牧野のねーちゃんじゃん。」と、三高の制服を着た男の子が数人のグループで入ってきた。弟の友達の一人の健くんだった。
「こんにちは。裕樹も一緒?」
「今日は別。ってか、ねーちゃんの彼氏?」
「まぁね。」
「うわー、庄司が見たら号泣だな。」と健は笑った。
「誰?」と類先輩が聞くので、
「弟の同級生の健くんです。よくうちに遊びに来るんです。」
「なんだ。ねーちゃん彼氏できたから最近オレたちにオコボレが回ってこないのか。」
「いやいや、最近作ってないだけだよ。また作ったら裕樹に渡しとくよ。」
「やったー。オレ、あのチーズケーキもう一回食べたい。」
「はいはい。」
「健行くよー!」レジ前にいた女の子たちに叫ばれ、健は
「ねーちゃんまたね。」と手を上げて走っていった。千花も笑って手を振ると、類先輩がぼそっと呟いた。
「何か妬けるなぁ…。」
「え?」
「彼らは千花ちゃんの手作りケーキを食べたことあるってことでしょ?」
「まぁそうですけど。」
「オレにも作って、チーズケーキ。」
「わかりました。今度類先輩に作って持ってきます。」
「やった。約束だよ。」小指を出しながら言うので、千花は笑いながら小指を絡ませて指切りをした。千花が指を離そうとすると、何故か類先輩は手を繋いだままテーブルに戻した。千花は類先輩の行動に戸惑いながらも、類先輩のされるがままにしていると、類先輩が言った。
「ミマちゃんが言ってたのってホント?」
「何の話ですか?」
「恥ずかしがり屋だからベタベタ触ってると嫌われるって。」不安げな顔で千花の手を撫でながら言った。千花は少し考えて、正直に話した。
「ずっと苦手だったんです。こういう風に手繋いだりするの。」千花の言葉に類先輩は手をパッと離した。千花は苦笑いをして、首を振った。
「高校の時、あんまりよく知らない先輩に告白されて、普通に嬉しいなって思って付き合うことになったんですけど、何ていうか…すごいベタベタしたがる人だったみたいで、初めて一緒に帰った日に、肩を抱かれてキスされそうになって、すごく嫌だったんですよね。」
「初日にそれだとちょっと退くね。」
「はい。スキンシップ過多っていうか、何度も部屋へ誘われたり、暗がりに連れ込もうとされたり、何かあからさまに早くヤりたいって感じがして、嫌になっちゃって。」
「まぁ、高校生なんてそれしか考えてないだろうしね。」
「…みたいですね。そういうことはしたくないってはっきり言ったら、じゃぁなんで付き合うって言ったんだよって逆ギレされちゃって…。」
「なるほど。」
「それ以来ちょっと苦手です。」
「トラウマになっちゃったんだ。」
「だから、類先輩が、この間の試合の日、急に頭触ったことにすごくびっくりして…。」
「ごめん。」
「いや、そうじゃなくて…。普通なら絶対イヤだって思っちゃうのに、類先輩に頭撫でられても全然嫌じゃなかったことに自分でもビックリしたんです。」
「え?」類先輩の反応に、千花は、コレじゃまるで類先輩が好きだと告白してるみたいだ、と思い、少し慌てながら、必死で言葉を探した。
「多分、全然知らない人に触られるのが嫌だったんですよね、私。付き合ってるって言っても、その人のこと全然知らなかったし、全然信頼してなかったんだと思うんです。」
「オレは信頼してくれてんの?」そう、信頼だ!と千花は思い、大きく頷いた。
「もちろん、信頼してなかったら一緒にコンテストに出るなんて引き受けないですよ。」
「そっか、良かった…。千花ちゃんの気持ちも分かるけどさ、オレはその男の子の気持ちもちょっと分かるな。」
「え?」
「多分さ、舞い上がってたんだと思うんだよね。千花ちゃんみたいな可愛い彼女ができて、どっか信じられない気持ちを早く払拭したくて、自分のものだって証明したかったんじゃないかな?」
「証明ですか?」
「うん。で、その男の子は、性欲に負けたっていうか、正直すぎた。千花ちゃんの気持ちを確かめる方法を、そういう行為に求めた。」
「そうですね、きっと。でも、私はそれに応えられなかった。」
「だね。」少し考える顔をしている類先輩を見て、千花は言葉を選びながら言った。
「類先輩と手繋ぐのは、嫌じゃないですよ。だって、類先輩が、私を守るために、ちゃんとした彼女だって周りにアピールするために、わざと見せつけるようにしてること、わかってますから。」千花の顔を見て、類先輩は苦笑いをして言った。
「そっか。バレてたか。」
「だって、あからさま過ぎますよ。突然わざわざ教室まで迎えに来たり。」
「ごめんね。」
「謝らないでください。私、嬉しかったんです。類先輩がそこまでして私を守ろうってしてくれて…。でも、心配しなくても大丈夫ですよ。何か言われても、そんな簡単にへこたれないですし、万が一被害をうけるようなことがあれば、すぐ類先輩に相談しますから。多分、私、類先輩が思ってるよりずっと強かですよ。陰口や悪口言われても、全然気にしないし、直接何か言われたとしても、すぐに言い返しちゃうし、負ける気はしないんで。」千花が笑って言うと、類先輩は千花の頭にポンと手を乗せて言った。
「ありがとう。でも、無理はしないで。ホントに些細な事でも何かあったらすぐ教えて欲しい。」
「わかりました。」千花が答えると、類先輩はニコッと笑って、
「そろそろ行こうか。」と言った。千花は頷いて、会計用紙を持って、立ち上がった。
「やっぱりオレが払うよ。」
「駄目ですよ。ここは私にご馳走させて下さい。」
「でもさ、かっこ悪いじゃん。オレが千花ちゃんに奢られるのって。」類先輩の言葉に、千花は、
「わかりました。じゃぁこれで支払って下さい。」と言って、財布から2000円を出して類先輩に会計用紙ごと渡した。
「そういうことじゃないんだけど…。」と苦笑いの類先輩に、
「ずっと奢られっぱなしなのは私が嫌なんです。」千花が言い切ると、類先輩は諦めたように
「わかりました。」と言って、お金を受け取ってレジへ向かった。
「ココ?」
「そうです。意外でしょ?でも、ここのスイーツはハズレがないんですよ。」カランカランとドアのベルを鳴らして店内へ入ると、カウンターの叔父さんが
「いらっしゃい。」と声をかけた。千花が
「こんにちは、ご無沙汰してます。」と挨拶をすると、
「あぁ、あんた三高の。久しぶりだね。」
「はい、卒業以来です。」叔父さんは千花の後ろを見て一瞬驚いた顔をして、
「デートかい?」と聞いた。千花は少し恥ずかしいなと思いながら
「一応。」と笑うと、叔父さんは
「あっちでゆっくりしていきな。」と奥の席を指した。千花は
「ありがとうございます。」と奥の席へ類先輩を誘った。席に座ると、類先輩は言った。
「千花ちゃん、ホントに常連さんだったんだね。」
「あんまり冒険する勇気ないんで、いつもココに来てました。」
千花はメレンゲの檸檬タルトセットにアイスコーヒーをつけ、類先輩は、ここの名物でもあるオレンジピール入りのガトーショコラとアイスコーヒーを注文した。類先輩は意外と甘い物が好きなようだ。
「そういえば、この間の檸檬のやつって作るの大変?」
「全然大変じゃないですよ。ミマが好きだから、高校の時よく差し入れで作ってたんです。檸檬の酸味はスポーツで疲れてる時に良いって聞いたことがあって。」
「そうなんだ。はちみつだよね?」
「檸檬の皮を薄く剥いて、輪切りにして、岩塩を少しかけて、一晩はちみつに漬けとくだけなんで、簡単ですよ。」
「やっぱり皮なかったよね?」
「はい。皮剥かなくても作れるんですけど、ミマは皮が口に残る感じが嫌だって言ってたんで、私はいつも剥いてます。ワックスとかかかってる檸檬もありますしね。」
「なるほど。また作ってくれる?」
「あれくらいならいつでも。」
「炭酸水に入れても美味しそうだよね。はちみつレモンソーダ。」
「もっと暑くなってきたら、ちょっと凍らせて食べるのもおすすめです。」
話していると、叔父さんがケーキとタルトを運んできてくれた。
「最近は作ってないのかい?」
「はい。いくら頑張ってもここのケーキには敵わないから。」
「そうかい?あのチーズケーキはうちでも売れたと思うけどな。」
「ホントですか?じゃぁまた作ってみます。」千花と叔父さんの会話を類先輩は不思議そうな顔で見ていた。
「ま、ごゆっくり。」叔父さんがカウンターへ戻っていくと、類先輩が聞いた。
「何の話?」
「高校の時、お菓子作りにハマってたんです。叔父さんにも何回か味見してもらってたんで。」
「そうなんだ。」
「とりあえず、食べましょ。これは、ほんとに美味しいですから。」千花はそう言って、フォークを取った。メレンゲをサクッと割ってタルト生地を一口サイズに切り始めると、類先輩もフォークを持ってケーキを一口食べた。
「んー。千花ちゃんがおすすめする意味がわかったよ。確かにすごく美味しいね、コレ。甘いだけじゃなくて、ビターチョコレートの苦味も、オレンジピールの爽やかさもちゃんとあって、すごい美味しい。」千花は、少し興奮気味の類先輩を見て嬉しくなった。
「ですよね?良かった、類先輩に気に入ってもらえて。」千花も一口食べて、口の中でメレンゲが溶けていく感覚を久しぶりに感じ、そうそう、これこれ!と幸せな気持ちになった。
「千花ちゃん、今すっごい幸せそう。」
「美味しい物食べると、幸せな気分になりません?」
「まぁそうだね。ここは穴場だったなー。また来ようっと。」類先輩も気に入ったようで千花はホッとした。
「こっちも味見しますか?」千花が類先輩に聞くと、
「いいの?」と嬉しそうな顔で言うので、千花は笑いながらお皿を差し出すと、何故か類先輩は口を大きく開けて待っている。え?と千花が戸惑うと、
「あーんってしてくれないの?」と類先輩が言った。千花は思わず
「有り得ないです。自分で食べて下さい。」と言った。類先輩は、
「残念だな。」と笑って言いながら、自分のフォークでタルトを切って食べた。最初驚いた顔をした類先輩は、
「ナニコレ。初めて食べた。めっちゃ美味しいじゃん。」と嬉しそうにもう一口食べた。類先輩が高校時代の千花の話を聞きたがるので、ミマと同じクラスだった2年生の頃の話をスマホの写真を見せながらしていると、
「あれ?牧野のねーちゃんじゃん。」と、三高の制服を着た男の子が数人のグループで入ってきた。弟の友達の一人の健くんだった。
「こんにちは。裕樹も一緒?」
「今日は別。ってか、ねーちゃんの彼氏?」
「まぁね。」
「うわー、庄司が見たら号泣だな。」と健は笑った。
「誰?」と類先輩が聞くので、
「弟の同級生の健くんです。よくうちに遊びに来るんです。」
「なんだ。ねーちゃん彼氏できたから最近オレたちにオコボレが回ってこないのか。」
「いやいや、最近作ってないだけだよ。また作ったら裕樹に渡しとくよ。」
「やったー。オレ、あのチーズケーキもう一回食べたい。」
「はいはい。」
「健行くよー!」レジ前にいた女の子たちに叫ばれ、健は
「ねーちゃんまたね。」と手を上げて走っていった。千花も笑って手を振ると、類先輩がぼそっと呟いた。
「何か妬けるなぁ…。」
「え?」
「彼らは千花ちゃんの手作りケーキを食べたことあるってことでしょ?」
「まぁそうですけど。」
「オレにも作って、チーズケーキ。」
「わかりました。今度類先輩に作って持ってきます。」
「やった。約束だよ。」小指を出しながら言うので、千花は笑いながら小指を絡ませて指切りをした。千花が指を離そうとすると、何故か類先輩は手を繋いだままテーブルに戻した。千花は類先輩の行動に戸惑いながらも、類先輩のされるがままにしていると、類先輩が言った。
「ミマちゃんが言ってたのってホント?」
「何の話ですか?」
「恥ずかしがり屋だからベタベタ触ってると嫌われるって。」不安げな顔で千花の手を撫でながら言った。千花は少し考えて、正直に話した。
「ずっと苦手だったんです。こういう風に手繋いだりするの。」千花の言葉に類先輩は手をパッと離した。千花は苦笑いをして、首を振った。
「高校の時、あんまりよく知らない先輩に告白されて、普通に嬉しいなって思って付き合うことになったんですけど、何ていうか…すごいベタベタしたがる人だったみたいで、初めて一緒に帰った日に、肩を抱かれてキスされそうになって、すごく嫌だったんですよね。」
「初日にそれだとちょっと退くね。」
「はい。スキンシップ過多っていうか、何度も部屋へ誘われたり、暗がりに連れ込もうとされたり、何かあからさまに早くヤりたいって感じがして、嫌になっちゃって。」
「まぁ、高校生なんてそれしか考えてないだろうしね。」
「…みたいですね。そういうことはしたくないってはっきり言ったら、じゃぁなんで付き合うって言ったんだよって逆ギレされちゃって…。」
「なるほど。」
「それ以来ちょっと苦手です。」
「トラウマになっちゃったんだ。」
「だから、類先輩が、この間の試合の日、急に頭触ったことにすごくびっくりして…。」
「ごめん。」
「いや、そうじゃなくて…。普通なら絶対イヤだって思っちゃうのに、類先輩に頭撫でられても全然嫌じゃなかったことに自分でもビックリしたんです。」
「え?」類先輩の反応に、千花は、コレじゃまるで類先輩が好きだと告白してるみたいだ、と思い、少し慌てながら、必死で言葉を探した。
「多分、全然知らない人に触られるのが嫌だったんですよね、私。付き合ってるって言っても、その人のこと全然知らなかったし、全然信頼してなかったんだと思うんです。」
「オレは信頼してくれてんの?」そう、信頼だ!と千花は思い、大きく頷いた。
「もちろん、信頼してなかったら一緒にコンテストに出るなんて引き受けないですよ。」
「そっか、良かった…。千花ちゃんの気持ちも分かるけどさ、オレはその男の子の気持ちもちょっと分かるな。」
「え?」
「多分さ、舞い上がってたんだと思うんだよね。千花ちゃんみたいな可愛い彼女ができて、どっか信じられない気持ちを早く払拭したくて、自分のものだって証明したかったんじゃないかな?」
「証明ですか?」
「うん。で、その男の子は、性欲に負けたっていうか、正直すぎた。千花ちゃんの気持ちを確かめる方法を、そういう行為に求めた。」
「そうですね、きっと。でも、私はそれに応えられなかった。」
「だね。」少し考える顔をしている類先輩を見て、千花は言葉を選びながら言った。
「類先輩と手繋ぐのは、嫌じゃないですよ。だって、類先輩が、私を守るために、ちゃんとした彼女だって周りにアピールするために、わざと見せつけるようにしてること、わかってますから。」千花の顔を見て、類先輩は苦笑いをして言った。
「そっか。バレてたか。」
「だって、あからさま過ぎますよ。突然わざわざ教室まで迎えに来たり。」
「ごめんね。」
「謝らないでください。私、嬉しかったんです。類先輩がそこまでして私を守ろうってしてくれて…。でも、心配しなくても大丈夫ですよ。何か言われても、そんな簡単にへこたれないですし、万が一被害をうけるようなことがあれば、すぐ類先輩に相談しますから。多分、私、類先輩が思ってるよりずっと強かですよ。陰口や悪口言われても、全然気にしないし、直接何か言われたとしても、すぐに言い返しちゃうし、負ける気はしないんで。」千花が笑って言うと、類先輩は千花の頭にポンと手を乗せて言った。
「ありがとう。でも、無理はしないで。ホントに些細な事でも何かあったらすぐ教えて欲しい。」
「わかりました。」千花が答えると、類先輩はニコッと笑って、
「そろそろ行こうか。」と言った。千花は頷いて、会計用紙を持って、立ち上がった。
「やっぱりオレが払うよ。」
「駄目ですよ。ここは私にご馳走させて下さい。」
「でもさ、かっこ悪いじゃん。オレが千花ちゃんに奢られるのって。」類先輩の言葉に、千花は、
「わかりました。じゃぁこれで支払って下さい。」と言って、財布から2000円を出して類先輩に会計用紙ごと渡した。
「そういうことじゃないんだけど…。」と苦笑いの類先輩に、
「ずっと奢られっぱなしなのは私が嫌なんです。」千花が言い切ると、類先輩は諦めたように
「わかりました。」と言って、お金を受け取ってレジへ向かった。