花とバスケと浴衣と
2限目が終わって、千花はミマと別れ、図書館のカフェへ向かった。混み混みの中、何とかコーヒーを買って、奥のテーブルへ行くと、少し眠たそうな類先輩がコロッケパンを頬張っていた。
「ごめん。お腹空いて先に食べ始めちゃった。」千花を見て、一瞬気まずそうな顔をした類先輩に、
「どうぞ、気にしないでください。」と千花は笑って答えた。
「コーヒーだけ?」千花のトレイを見て類先輩が不思議そうに聞いた。
「今日はサンドイッチ作ってきたんで。」
「そうなの?じゃぁ食べずに待ってれば良かった。」
「どうしてですか?」
「オレが千花ちゃんの手作りサンドイッチ食べたかったから。」
「昨日の残りを挟んだだけなんで、類先輩にはあげません。」
「えーー。」
「でも、デザートはありますから。」不服そうな顔の類先輩に千花が言うと、
「そうだった。早く食べよ。」と言って、類先輩はコロッケパンを急いで食べた。普段はすごくカッコイイのに、こういう所は子供っぽくってかわいいよなーと千花は思いながら、保冷バックからサンドイッチを出して食べた。コッペパンのホットドックを見て、
「やっぱりそっちが良かったな。」とつぶやく類先輩に、千花は笑った。
「今度ちゃんと作ってきますよ。」千花の言葉に類先輩は目を輝かせ、
「約束だよ、絶対。」と子供のようにはしゃいだ。類先輩がコロッケパンを食べ終わったので、千花は、保冷バックから紙袋を差し出した。
「はい、約束のチーズケーキです。どうぞ。」
「開けても良い?」
「もちろん。」嬉しそうな顔で類先輩が紙袋をそっと開け、中から紙コップのスフレと、ワックスペーパーに包まれたベイクドチーズケーキを出した。
「二種類あるの?」
「ミマはベイクドが好きなんで、いつもこっちなんですけど、妹はスフレが好きなんですよね。」
「オレのために2つ作ってくれたんだよね?」
「はい。どっちが類先輩の好みかわからなかったんで。」
「めちゃくちゃ嬉しい。どっちから食べたら良い?」
「こっちの方が軽い感じで、こっちの方が濃厚です。」千花が説明すると、類先輩は迷いながら、スフレを手に取った。紙袋に入れていた小さなスプーンで、すくって一口入れた。千花が様子を見守っていると、類先輩は目を大きく見開き、
「これ、ホントに千花ちゃんが作ったの?」と言った。千花が頷くと、
「売ってるやつみたい。すっごい美味しい。これ、もっと食べたい。」とテンションが上がってパクパクと食べた。千花は笑いながら、
「気に入ってもらえて良かったです。」と答えた。
「こんなのどうやって作るの?ってか、千花ちゃんって何者なの?」
「何者って…。高校時代ハマってたんですって、お菓子作り。ストレス発散にお菓子作りみたいな感じで。」
「こんなうまいものを、弟の友達たちにごちそうしてたのか。」急に不機嫌になった類先輩に、千花は笑って言った。
「いつも、作る時はすごく沢山作るんです。家中に甘い匂いが漂うくらいに。美味しいものの匂いに包まれてると、幸せな気分になれるから。だから、私のストレス発散方法になっちゃったっていうか…。」
「これ、また作ってくれる?」期待をした目で見るので、
「良いですよ。」千花は笑って答えた。
「オレの家で作って。」
「え?」突然何を言い出すんだこの人は、と思って千花が見ると、
「オレも家中美味しいものの匂いに包まれて千花ちゃんと一緒に幸せな気分に浸りたい。」類先輩は完全妄想に入ってしまったらしい。ワクワクがにじみ出た顔で言った。千花は戸惑いながらも、
「類先輩の家、オーブンあるんですか?」根本的な事を千花が聞くと、類先輩は固まって
「レンジしかない…。」と呟いた。千花はあまりにも悲しそうな顔で言う類先輩が面白くて、思わず笑ってしまった。すごく残念そうな顔をしながら千花を見るので、千花は思わず、
「スフレなら、フライパンで蒸してからちょっと表面にトースターとかで焼き目をつけることもできますけど…。」と、別の作り方を提案してみた。
「トースターはある!」類先輩が目をキラキラさせて見るので、千花は、
「じゃぁ全く同じにはならないと思いますけど、これっぽいのは出来そうですね。」と笑った。類先輩は嬉しそうに、
「千花ちゃんいつなら空いてる?」と既にスマホを出して自分の予定を見ている。いやいや、ちょっと待ってよ。ホントに類先輩の家で作るの??千花が戸惑っていると、類先輩は、フと我に返ったのか、
「あ、そっか。やっぱり突然家に来てとかって戸惑うよね。」と苦笑いをした。千花が曖昧に頷くと、
「千花ちゃんが嫌がることは何もしないって誓うよ。」いやー、そう言われましても…と千花が尚も戸惑うと、
「じゃぁ、ミマちゃんも一緒にならどう?」それなら良いかもしれないが、ミマはスフレよりもベイクドが好きなんだよなーと千花は思った。それに、ミマは絶対に嫌がるだろうし、部長さんの許可が出るとは思えない。千花が考えていることはわかったのか、
「良いこと考えた。ばあちゃんち。あそこなら、オーブンもあるし、ばあちゃん一緒ならオレが絶対変なことしないって証明できるでしょ?」ものすごい名案を思いついたような顔で言う類先輩に、千花は思わず、
「いやいや、類先輩、落ち着いて下さいよ。」と突っ込んだ。しかし、類先輩は気にする様子もなく、
「それに、ばあちゃんちで作ったら、ばあちゃんにもご馳走できる!」と言い切った。いやいや、それってどうなの?と千花が思っていると、
「これ、絶対ばあちゃんも好きだと思うし、ばあちゃんも、こないだ千花ちゃんのこと気に入ったみたいなこと言ってたからさ、絶対喜ぶと思うんだ。どう?」
「どうって言われましても…。作ったものを持っていくならまだしも、お宅で作らせて下さいっていうのはちょっと…。」
「じゃぁ、ばあちゃんにまず食べてもらおうよ。」
「え?」
「先に試食してもらって、許可が出たら、作りに来る。これでどう?」
「えーー?類先輩本気ですか?」
「本気だよ。駄目?それとも、千花ちゃんはオレと一緒に作るの嫌?」
「嫌ってことはないですけど…。」
「じゃぁそうしよ。ね?良いでしょ?」
「お祖母様がこのスフレを気に入ってくださったらっていう話ですよ。」
「絶対気にいるから大丈夫。」
「その絶対の自信はどこから来るんですか?」
「だってオレ、おばあちゃん子だもん。ばあちゃんの好みは把握してる。」
「左様ですか…。でも、お祖母様だって、他人にキッチンに入られるのは、嫌がるんじゃないですかね?」
「そこは聞いてみる。」
「絶対に、お祖母様の意志を尊重してくださいよ。」
「尊重する。」
「わかりました。じゃぁ、これ、お祖母様に持って帰って下さい。」千花は店長夫妻に渡す予定だったケーキを保冷バックごと類先輩に渡した。
「これって?」
「同じものが2つずつ入ってます。バイトの店長と奥さんにと思ったんですけど、お二人にはまた別の機会に渡します。」少し申し訳無さそうな類先輩に、
「別に、持っていくとも何とも言ってないんで、気にしないでください。」と千花が言うと、類先輩は満面の笑みで
「ありがとう。」と言い、千花の手から保冷バックを受け取った。

< 34 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop