花とバスケと浴衣と
土日はバイトで、月曜からは千花もテスト期間が近づいてきたので、色々な課題に追われ、類先輩とは顔を合わせないまま水曜日を迎えた。
「今日はもう大学に来てるから、良かったら一緒にランチしない?」類先輩からのラインを2限目が始まる前に見て、千花はあっと思った。お昼はグループ作成のレポートの話合いを入れてしまっていた。
「すみません。今日はグループ作成のレポートのミーティングが入ってます。」申し訳ないなと思いながら、メッセージを返した。涙顔のスタンプと共に、
「残念…。千花ちゃんに会いたかったのに…。ミーティングどこでやるの?」とメッセージが届いた。千花は、両手を合わせているスタンプを送り、
「すみません。学生ホールです。でも明日会えますよ。」と送った。
「そうだけど…。今日も会いたかった。」と速攻返事が来て、そんなに会いたい連発されると勘違いしちゃうって…と思いながら、千花は類先輩に合わせて
「私も会いたいです。」とハートのスタンプを送った。自分で送りながら、ちょっと恥ずかしいなと思っていると、ハートのスタンプが連続3つで送られてきた。類先輩の方がよっぽど恥ずかしい人だ。でも、どうやら千花の返事に満足してくれたらしい。
2限目の授業が終わって、同じグループの仲間たち6人で学生ホールのテーブルでパンを食べながら、それぞれの分担について相談した。地域が違うミマとは同じグループになれず、同じアジア文化を選考希望の人たちでじゃんけんで決めたグループだった。ほとんど話したことのない男の子も居て、ちょっとやりづらいなと思いながらも、決まったものは仕方ない。女の子の一人はアナウンス志望の子で、男の子にもう一人アナウンス志望の子がいて、二人は知り合いのようだった。課題のテーマは「各地域圏における文化的側面の特徴」で、それぞれ担当の地域が振り分けられている。千花のグループはインドネシアが担当だった。何となく仕切ることになったらしい男の子を中心に、話を進めていたが、どうもアナウンス志望の二人の協力性が見えない。嫌々やっています感が半端なく、女の子の方は、スマホをいじりながら、話を聞いているのか居ないのかという雰囲気だった。何か嫌な感じだなーと思いながらも、元々インドネシアを含む東南アジアに興味がある女の子と一緒に、意見を出しながら、それぞれが1つずつ担当できるように6つの項目を出し合った。言語、教育、時事、地理、衣服、食事という項目が決まり、誰が何を担当するかという話になって初めて、アナウンス志望の女の子が口を開いた。
「これ、6つも項目いるかな?衣服とかって必要?」女の子の意見に、
「文化的側面の特徴って考えると、伝統衣装とかは有りじゃない?」と、纏めていた男の子が答えた。
「えー?そうかなー?私インドネシアとかはっきり言って全然興味ないんだよね。」その子の発言に千花はイラッとした。イラッとしたのは千花だけじゃなく、もう一人の女の子もだったようで
「だから何?」と冷たく言った。
「あなたは元々そういうのに興味あるから今後に役立つかもしれないけど、私アナウンス志望だから、はっきり言って要らないのよ、こういう知識。適当に5人でやってくれない?」
「お前、何言ってんだよ。自分だけ楽しようなんて思うなよ。」アナウンス志望の男の子が声を上げた。
「だってそう思わない?せっかくグループなんだから、興味がある人がやればいいじゃない。」メゲない女の子に千花は思わず、口を滑らせてしまった。
「アナウンス志望なんだったら、もっといろんなことに興味を持った方が良いと思うけど。」冷たい視線を向けられ、あ、言っちゃったと思っていると、
「あなたに何が分かるの?」と食いつかれた。
「少なくとも、インドネシアには興味ないからやりませんって言う人がアナウンサーになれるとは、思わないわ。だって、もし将来あなたが本当にアナウンサーになれたとして、インドネシアの記事を読む時に、全く知識がないまま読まれたとしたら、聞いてる方はちんぷんかんぷんになると思う。」言いながら、何で言っちゃったんだろうと千花は反省した。
「それはその時にちゃんと勉強するわよ。」
「その時になって勉強するんじゃなくて、今やってしまった方が手っ取り早いとは思わない?確かに、今は興味が無いかもしれない。でも、こうやってグループでやるって決まって、課題として出されたのがインドネシアだったんだから、単位が欲しいなら文句を言わずに協力してやるべきじゃない。」千花が言うと、
「そうだよ。オレたちだって、インドネシアについてそこまで興味があるわけじゃないよ。でも、それが課題なんだから仕方ないよ。グループでって決まってるんだからちゃんと6人で分担してやらないと。」まとめ役をしていた男の子が応戦してくれた。
「わかったわよ…。」と不服そうにしながら女の子が黙った。千花はホッとしていると、
「じゃあオレは時事が良い。」とアナウンス志望の男の子が言った。そうだろうなと思っていると、早い者勝ちと言わんばかりの勢いで、皆が希望を言い出した。千花は何でも良かったので、皆の希望を聞き取って、ノートに書いた。最後に余ったのが教育と地理で、まとめ役の男の子が聞いた。
「牧野さんはどっちが良い?」
「私はどっちでも良いよ。どっちにしろ全然知識ないからゼロから調べなきゃいけないし。」
「じゃぁ地理をお願いできる?」
「分かった。」と、それぞれの分担が決まった。ノートに書き上げ、ホッとして顔をあげると、類先輩がこちらに向かいながら手を振っているのが見えた。びっくりして驚いていると、
「じゃぁ分担決まったからもう良いでしょ。次回の授業までにある程度纏めてくるってことで。」と、アナウンス志望の女の子が急に仕切って立ち上がった。
「そうだね。とりあえず、じゃぁ来週までで。」と元々仕切っていた男の子も言って解散になった。ノートを片付けていると、既に近くまで来ていた類先輩が、
「終わった?」と口パクで聞いた。千花が苦笑いをしながら頷くと、
「さっきはありがとうね、牧野さん。」と仕切っていた男の子が千花に話しかけた。千花は近づいてくる類先輩を意識しながら
「いや、ちょっと言い過ぎたかなって思ってたんだけど、応戦してくれてありがとう。」
「彼女最初からやる気ないのバレバレで、嫌な雰囲気だったからさ、どうなるかと思ってたんだ。」嬉しそうに話す男の子に、
「とりあえず分担が決まったし、良かったよ。」と答えていると、急に背中から覆いかぶさるように抱きしめられた。肩を抱くような腕と、頭上に重みを感じて、驚きのあまり身動きが取れずにいると、
「お昼の時間までお疲れ様。もう終わったんでしょ?」と類先輩の声が頭上でした。何?この状況と思っていると、目の前にいた男の子も驚愕した表情で千花と類先輩を交互に見て頷いた。
「良かった。じゃぁもう千花連れてって良いよね?」と男の子に半ば強制的に確認すると、男の子は千花に苦笑いをして頷いた。類先輩は千花から離れると、片手で千花の鞄を持ち、もう片方の手で千花の手を取って歩き始めた。千花はされるがままについていきつつ、
「ちょっ…類先輩、どこ行くんですか?」と聞いた。階段を上がって、空いていた教室に入ると、類先輩はやっと手を離してリュックを下ろし、ペットボトルを1本出した。
「やっと会えたね。」と水を一口飲んで微笑む類先輩に見惚れていると、
「千花ちゃんが会いたいって言うから会いに来た。」と満面の笑みで言った。千花が顔を真っ赤にして、
「あれは…類先輩が会いたかった会いたかったって送ってくるから…。」反論しても
「うん。でも、千花ちゃんも会いたいって返事くれたから嬉しくなって来ちゃった。」何の悪気もないような顔をして類先輩は言った。
「会いに来たら男の子たちと話してるから、ちょっと妬いたよ。あの子は絶対千花ちゃん狙いだから牽制しとかないとと思って。」と嫌そうな顔で続ける類先輩に
「いや、ありえないですから、ホントに。やめてくださいよ、すごいびっくりしたじゃないですか。」千花が先程の状況を思い出して、恥ずかしがると、
「ごめん。今朝、33の応援サークルの子に、最近彼女と一緒に居るとこ見ないですねって言われたからさ。」
「はい?」
「ファンの皆さんにサービスショットみたいな感じ?」いたずらが成功した子供のような顔で見るので、
「類先輩ってタチが悪いですね…。」と思わず本音を呟いた。
「ごめん。千花ちゃん怒った?嫌いになった?」少し焦った様子の類先輩に
「嫌いにはならないですけど…ああいうのはもうやめて下さい。心臓に悪いから。」千花が言うと、
「ごめん、気をつけます。」と類先輩は素直に謝った。明日の約束を確認して、類先輩と別れ、3限目の教室に移動すると、先程まで一緒に居た同じグループの女の子が、
「牧野さんって、ホントに草加さんの彼女だったんだね。」と目を輝かせて近づいてきた。うわ、また面倒くさいことになったな、と千花が思っていると、
「何か嬉しい。草加さんの彼女がすごい素敵な人で。」と言った。はい?と千花が目を点々とさせていると、ミマが近づいてきて、
「千花、あんた昼休み何してたの?」と言った。
「何って、グループ作成のレポートの打ち合わせだけど?」
「じゃぁこの写真は何?」と見せられた写真は、先程類先輩が千花を後ろから抱きしめている写真で、何故か類先輩はカメラ目線でピースをしている。千花は呆気にとられて
「ナニコレ…。」と呟いた。同じように写真を覗いていた女の子が、
「きゃー素敵!これ、私にも転送して!!」とミマに言い寄っていた。
「何でこんな写真が…?」固まっていた千花がミマに恐る恐る聞くと、
「33の応援サークルのメンバーから回ってきた。」
「誰が撮ったの…?」
「さぁ、応援サークルの人じゃない?」ミマの言葉に千花は頭が痛くなった。類先輩の言っていたサービスショットって本気だったんだ…。どう落とし前を付けてくれるつもりなのか…とフツフツと湧いてくる怒りを押さえつつ、ミマに頼んだ。
「ミマ、その写真頂戴。」
「良いけど、千花、大丈夫?」
「うん。本人にブチ切れてやる。」千花が呟くと、ミマは一瞬操作の手を止めた。手が止まったミマを千花が睨むと、ミマは
「クワバラクワバラ」と言いながら写真を送ってくれた。

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